第199回 バス便ではなく新交通便のマンションなのです(晴海フラッグ)

このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

今日の記事は、晴海フラッグについてです。昨年の記事・第177回で「選手村マンション。五輪開会前に売り出すニュースに触れて」と題して一度書きましたが、その後の調査から感じたことを書こうと思います。

第177回はこちらです。https://www.sumu-log.com/archives/12879/

 

●晴海フラッグってどんなマンション

晴海フラッグの特色は・・・

①   日本最大級の大規模分譲マンションである

②   土地がないはずの都心に創られるニュータウンである

③   複数のマンション、商業施設、小中学校など街の機能が一通りそろう開発である

④   ウオーターフロントの街である

⑤   リゾート的な要素を持つ環境のマンションである

⑥   東京都中央区のアドレスにある

⑦   新橋駅に10分の近距離にある

⑧   東京オリンピックのレガシーである

⑨   マンション開発業者大手11社の共同事業である

⑩   中央区のマンションとしてはあり得ない価格で販売されるマンションである

⑪   安いので、同予算なら広い我が家が手に入ることになる

 

晴海フラッグの心配な材料は・・・

①   鉄道のない街である。最寄り駅には徒歩なら20分もかかる

②   BRT(高速バス輸送システム)がどのようなものか。まだよく分からない

③   買いたい部屋をうまく買えるか(人気になりそうだ)

④   引き渡しまでの時間が長い(2023年3月入居)

 

●晴海フラッグの価格は本当に安いのか?

格安マンションが市場に与える衝撃は小さくないという声もありますが、どのような影響が考えられるでしょうか?

ひとつは、近隣エリア、すなわち勝どき・月島・有明などの中央区と江東区豊洲、東雲エリア、港区・品川区の湾岸エリアの販売中マンション、及び既存マンションの価格の下方修正圧力です。

もうひとつは、準都心、郊外エリアで晴海フラッグに並ぶ新築マンションの売れ行きに与える影響です。

 

新築マンションへの影響は全くないとは言いませんが、近隣マンションの価格が下がることはないと思っています。

新築マンションの価格は土地代と建築費の二大原価の積み上げによるので、これが下がらない限り下がりようがないからです。既に買ってしまった土地代もさることながら近隣の地価が下がる見通しもありませんし、建築費も着工しているものはもとより、これから着工する物件も安く請け負うゼネコンが出て来るとは思えないからです。

利益を削って販売するなどということもありません。もともとマンション分譲は高い利益率ではないので、削っても2%か3%が限度です。それ以上の削減は少なくとも売り出し時点ではあり得ません。

つまり、晴海フラッグの格安(?)価格が他のマンションの価格を引き下げる圧力にはなり得ないのです。晴海フラッグだけが噂の安値で売り出されるのです。理由は土地が東京都から安く払い下げられたからにほかなりません。」

 

既存マンションの方はどうでしょうか?

中古マンションの価格は新築マンションの価格に連動する傾向があります。新築相場が上がれば中古も値上がりするのです。晴海フラッグが噂とおりの安値で販売され、数年の間「新相場」のように誤解されるとしたら、既存マンションの流通価格に影響を与えることはあるかもしれません。

しかしながら、マンションの価格は固有の条件で大きく変わります。同じ地域の同じ年数のマンションがみな同じ価格になるわけではないのです。

晴海(月島)エリアでも築20年を超えて新築マンションに並ぶくらいの価値あるマンションも実際に存在します。エリアによって相場が存在しているものの、それは平均的な価格と言うべきもので、物件格差は大きいのです。

晴海フラッグより価値あると認められるマンションなら影響はないか、あっても僅かということになりましょう。「晴海フラッグに比べて劣る」マンションもあれば、全く比較対象にさえならない別格のマンションもあるというわけです。

同じ価格帯の二つのマンションを比べて、晴海フラッグは広いが駅に遠い、対して対抗物件は狭くなるが妥協できる広さがあり、駅に徒歩5分であるというとき、どちらを選ぶかは人それぞれなので、全部が晴海フラッグに行ってしまって対抗物件の買い手がゼロになってしまうこともなければ、対抗物件はすぐに入居できるので、晴海フラッグに魅力は感じても対抗物件を選ぶ人もあるのです。

 

首都圏のマンションの新規供給は潜在需要ボリュームに比べて低迷が続いていますが、これに大きな回復の見通しはなく、中古マンションを探すしか道はない現況にあります。特に、人気地域や都心に近い地域のマンションは買い手探しに困ることもないと言って過言ではありません。

従って、値崩れするリスクも小さいはずです。選手村マンションに住み替える人もあるので、いっときは売り物が多く出回るにしても、売り出されるのはすぐではありません。しかも、売り出しが増える局地があるとも思えませんし、特定マンションに偏るということも確率的には低いはずです。

もし、特定マンションから10戸も20戸も一時期に集中的に売り出されることがあったとしても、しばらくすると落ち着いて来ます。その間だけ待てばいいのです。

影響を受けにくいのは優良物件、受けやすいのは普通以下の物件です。同じエリアの中で比較するのですから、①ミクロの立地条件が良いこと②建物価値が高いことが優良物件ということになります。

ミクロの立地条件とは、駅に近い(1~3分)こと、もしくはピンポイントの環境、なかんずく眺望がよく、また生活利便施設が充実していることなどの面でインパクトが強いかどうかです。

また、建物価値が高いとは、このエリアなら大規模タワー、個性的なデザイン性、大規模ならではの豊富な共用施設を備え、24時間有人管理やコンシェルジュサービスを提供していることが最低条件となりましょう。

この地域では、①か②ではなく、①も②も具備した物件が最も影響を受けにくいと言えましょう。

 

近隣で販売中のマンションにも同じことが言えるでしょう。晴海フラッグはバス便(BRT)マンションですが、駅から近いマンションでなければ困る人は大勢いますし、晴海フラッグの入居時期(2023年3月入居予定)が条件に合わない人もあるでしょうから、影響を受ける度合いは少ないはずです。価格への影響も小さいと見ています。1年もしないうちに住むことが可能な新築マンションなら、予算内に収まっている限り問題はないはずです。

 

準都心・郊外マンションに与える影響はないでしょうか?

価格はまだ正式に決まったわけではありませんが、仮に噂される単価(坪270万円とか280万円ということになると、以下に挙げるような地域の単価に並びます。

さいたま市浦和区の浦和駅・・・平均270万円。駅に近い物件では300万円を超えます。浦和を選ぶ人の中には京浜東北線で東京駅や新橋、田町、品川といった駅を最寄りとする職場に通勤する人が多いと聞きます。浦和駅から東京駅までは、JRで約40分の距離です。現在、浦和駅の近くの社宅に住んでいる人が、近隣のマンションを考えていたとして、そこに晴海フラッグの登場で俄然検討対象に加わるということがあり得るのではないでしょうか?

同様に、武蔵小杉のタワーマンションを検討していた人の中に、新橋駅まで20分ならBRT10分の晴海フラッグの方がメリットは大きいとして方向転換する人もあるかもしれません。

東京都区部でも、世田谷区や杉並区、中野区辺りになると坪単価300万円以下で新築マンションを見つけることはできない現状にあります。

そのために何%かの買い手は晴海フラッグに向かうことが考えられます。視野を広げればもっと安い物件が都心にあることに気が付くのです。

いずれかの段階で売主は広域の広告宣伝を実施することでしょう。インターネットや新聞広告、電車内の吊り広告、チラシの折り込みなどを都区内全域で展開するはずです。そうなったとき、それまで見向きもしなかった地域の需要層が目を止めて関心を持ち出すかもしれません。

同じ中央区では、日本橋付近なら新築マンションは坪単価400万円もするようになっています。都心に近いという意味では、70㎡で8500万円もする日本橋をやめて、85㎡の晴海フラッグに鞍替えする人があっても不思議なことではありません。

 

こうした検証をして来ると、晴海フラッグはやっぱり安いということになりますが、それは単純比較でのことです。価値あるマンションが格安で売り出されるのか、その価値なりの価格で売り出されるのか、それは今のところ何とも言えません。また、価値はその受け止め方(価値観)で変わるものであり、前向きな買い手にとっては安いと感じるものでもあるのです。

 

問題は、数年を経て中古市場に出したときにどのような価格になるかにあります。資産価値は換金価値でもあります。新築の販売のときは、大々的な販売キャンペーンと大掛かりな販売ツールによるプレゼンテーション、専任担当者のセールススキルなどによって買い手の購買意欲を刺激して行くので、割高なものでも売れてしまうものですが、中古のリセールにはこうした仕掛けもツールも一切なく、店頭の棚に他の物件と分け隔てなく並べて置かれるだけです。つまり、静かに買い手を待つしかないのです。その結果の取引価格がいくつか集まって相場として収斂していきます。

相場は市場が決めるのです。新築のように売主誘導型の価格にはなりません。筆者が提供するサービスに「将来価格の予測レポート」がありますが、ズバリ購入したマンションの10年以上先を予測して損失が出るか出ないかをシミュレーションしています。おそらく、この依頼がたくさん来るだろうと考えていますが、これまでのどんなマンションよりも、晴海フラッグの場合は予測が困難を極めるだろうと今から危惧しています。街が計画段階でしかないからです。マンションの価値は、街の価値と合わせて行うべきもので、完成していない段階での評価はしにくいのです。

●カギを握るBRTの機能

「BRT」とはBus Rapid Transit(バス高速輸送システム)の略で、道路上の専用レーンや専用道路を走るバスのこと。運行の遅れが少なく、通常の路線バスよりも多くの乗客を効率よく輸送できるという特長があります。

開業すれば虎ノ門・新橋・勝どき・晴海・豊洲・有明などをスムーズに行き来できるようになります。そんなBRTについて東京都は2018年8月29日、新たな整備案を出しました。内容を見てみると、BRTのプレ運行は2020年度より、本格運行は2022年度より開始となるそうです。

プレ運行(一次運行)         2020年度        東京2020大会の開催前・開催中

プレ運行(二次運行)         2020年7月〜9月       東京2020大会の開催後

本格運行      2022年度〜     環状2号線本線トンネル開通後

 

運行会社はプレ運行時が京成バス、本格運行時には京成バスと新会社による共同運行が予定されています。既に名称は東京BRTとして決定しています。

(画像:東京都のHPより)

 

BRTは一体どのくらいの人数を運べるのでしょうか?

定員129名の連接バスと、定員78名の単車バスの2種類。単車バスは燃料電池で走るそうです。

BRTの車両は一般的なバスの形をした単車バスと、車体が2連つながっている連節バスの2種類になるそうで、連接バスのデザインも上の図のように出ていました。

電車との違いで考えればわかりやすいかと思いますが、①線路ではなく専用道路を、②電車でなくバスが走ります。

普通のバスとBRTの違いは、BRTには専用レーンや専用道路があり、信号もBRT用に切り替わることで、普通のバスでは難しかった定時運行が可能になるそうです。停留所ではなく駅も設けられるそうで、手間のかかる乗り降り時の料金支払い方式はやめて事前に済ませておく方式になるそうです。

<運行ルート>

BRTの運行ルートは次のようになっています。

◆幹線ルート

虎ノ門・新橋駅・勝どき・晴海五丁目・市場前駅・有明テニスの森・国際展示場駅・東京テレポート駅

◆晴海・豊洲ルー

虎ノ門・新橋駅・勝どき・晴海三丁目・晴海二丁目・豊洲駅・市場前駅

◆勝どきルート

新橋駅・勝どき

◆選手村ルート

新橋駅・勝どき・晴海五丁目(選手村

※この他、東京駅、銀座、東京ビッグサイトへの運行も今後検討するとあります。

 

●発想を転換すると「晴海フラッグ」は輝いて見える?

バス便マンションの資産価値は低い、リセールバリューは期待ができないと繰り返し語って来た筆者が宗旨替えしようとしているわけではありません。資産価値という観点では疑問が残るマンションであることに変わりはありません。

しかし、BRTはバスではなく新交通システムです。郊外のバス便マンションとも違います。

一定の覚悟をもって購入するならば、経済的損失が仮に出たとしても金銭の多寡では測れないマンションライフ、言い換えれば家族の幸福が大きければ購入する価値があるのです。

ネット世代でなくテレビ世代の筆者は、テレビを買ってから10年も経って振り返ると、10年間ずっと筆者ならびに家族に娯楽や報道、知識などを情報として提供し続けて来たのです。テレビって有り難いものだ。番組を制作しているテレビ局と制作会社も、番組を発信するハードウエアのテレビジョン装置もなんと偉大なのだろうと改めて思います。

いくらで買ったかは忘れましたが、この先テレビジョン装置が故障して受信不可能になり廃棄したとしても、購入代金を惜しいと思うことはありません。無論、新型の4Kテレビや8Kテレビに買い換えたいと思っても、古いテレビを買ったときの値段以上で売れたらいいなどと考えることもありません。多くの日本国民が同じ考えではないかと思います。

マンションの場合は金額がまるで違うので、また現実として中古マンションに値が付くことも知っていますし、住宅ローンの債務処理という問題もあるのでテレビと同じと言うと飛躍しすぎですが、買った値段以下になってもローンの残債が処理できる程度に売れれば、住んだ期間に得た精神的利益で相殺され、人によってはお釣りが来るのです。

 

●物件固有の価値に注目することが大事

これまで繰り返し筆者が発信してきたことをまとめると、①職住近接傾向が強まり、郊外マンションは需要が減る②郊外は一戸建てが安く購入できるので、地元勤務者でマンションを購入する人は少ない③ダブルインカムの高収入世帯(パワーカップル)の台頭は高い都心マンションも買えるが、郊外マンションは安くても不都合だ④人口減少によって、郊外マンションの需要はますます減る。だから、郊外マンションの将来は暗い、の四つでした。

このような悲観的な予測があっても、通勤圏内の都市の人口がゼロになってしまうわけでもないですし、マンション需要も少ないながら有り続けるはずです。しかし、今後のマンション選びは条件をより厳格にしておくことが必須となるのです。

 

不動産の価値は、個別的要素によって大きく左右されるものです。全体的に価値の低い(価格の安い)地域にあっても特定の人気物件というものがあることで理解できます。

エリアの市場規模によって異なりますが、「この街ならあのマンションだけ、この駅ではトップグループ3つが良い」などと名指しされるような物件を選ぶ必要があります。

どんな市況のときもゆるぎない価値を保つ(価格の下落がない)マンションなどというものはありませんが、比較して高い競争力を持つ「地域一番の有名マンション・シンボルになる存在感を放っているマンション」を可能な限り選択したいものです。

 

●晴海フラッグの将来価値は?

安いマンションは一段と安くなるもの(100で買ったマンションが150になる一方、80で買ったものは80にとどまる)という法則性は晴海フラッグに当てはまるでしょうか?

バス便マンションは不便だから値下がりするのです。しかも、これまでは、その位置が都心から離れていたからでした。

晴海フラッグはバス便マンションといえども、都心にあるのです。それも新橋に10分でアクセスできるという至近距離にあります。これは大きなメリットと言えます。

しかも、バスとはいえ、停留所ではなく「駅」ができるということなので、地下鉄のようなエアコン付きではないでしょうが、雨は防げそうです。としたらJRのプラットホームで電車を待つイメージです。

販売価格がその価値なりのレベルなら、バス便であっても値下がりするとは言えないはずです。

都心で中央区アドレス、ウオーターフロントの素晴らしい景観と環境の良さ、数々の付加価値、広い間取り、オリンピックレガシー、売主が大手ばかりの信頼性など、長所は数え上げると手に余るほどです。大規模ゆえに特別な存在感を放つでしょうし、有名マンションとして世間に認知される可能性も高いはずです。

何やら晴海フラッグの礼賛記事のようになってしまいましたが、決してそうではありません。発想を換えれば検討価値があると言いたいのです。

短絡的に安いから買って儲けようなどという人もいるらしいですが、晴海フラッグにその考えはいかがなものかと思います。

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https://www.e-mansion.co.jp/bbs/search/HARUMI%20FLAG/

 

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