第177回 選手村マンション。五輪開会前に売り出すニュースに触れて(晴海フラッグ)

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このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

2018年11月2日の新聞報道で、オリンピック選手村マンションを2019年に売り出すことを知りました。ただいま建設中の選手村ですが、五輪終了後は民間企業11社(三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産、トウキョウ建物、東急不動産、大和ハウスなど)に譲渡され、住宅に改修して分譲と賃貸マンションになると聞いていましたが、このニュースから察するに、用地の譲渡契約は済んでいるということになります。

 

普通に考えれば、東京都が所有し、選手村として使用した後に11社に譲渡する。それを譲受した民間企業は、改修しながら分譲販売する、同時に賃貸するという流れのはずです。そうではなかったのです。

 

土地を譲り受けた11社は、自ら建物を建設してオリンピック期間中のみ、東京都に貸し出す。そのようなスキームだったのでしょうか?

 

筆者は、各種報道を誤解し、思いこんでいたのです。全くの盲点でした。すでに民間企業の土地であるなら、まだ始まっていない選手村を売り出すと公表することに何の問題もありません。東京都議会で、「安過ぎる」という追求が少し前にあったことを思い起こし、もう売ってしまっていたのか、腑に落ちました。と同時に、寡聞・誤解を恥じ入りました。

 

実は、筆者は選手村のマンションに興味がなく、最近まで何ら調査もせず、見解も持ち合わせていなかったのです。理由は簡単です。交通便の悪いマンションには価値がないと思っているからです。

 

ところが、最近になって知人に詳しい人があり、会うたび話題に上るので、少しは勉強しておこうと思い立った次第です。

 

一昨日(11月3日)、その知人の案内で現地に行って来ました。選手村のすぐ隣にある「晴海客船ターミナル」の6階に上ると展望台があって全貌がよく見えるのです。(下の写真の下方に客船が浮かんでいることが分かります。情報によれば、このターミナルは移転するので、ここからは消えるそうです)


(遠景画像:物件公式ホームページ)

 

●選手村見学記を少々

筆者はルポライターの素養はないので、うまく書けませんが、「潮の香りがするなあ」「空が青い」「あ~海だ」「レインボウブリッジや豊洲の街が一望にできる」「すぐ目と鼻の先は豊洲新市場が見える」などを感じました。

 

住宅(マンションの各住戸内部)からは、どんな光景が見えるのだろうか?そんな思いも浮かびました。50階建てのマンションも2棟建つ予定になっていて、その48階にタワー以外の住民も自由に上って景色を楽しむことができるのだそうです。

 

既に外観が見えており、工事は順調に進んでいる印象でした。この分だと、オリンピック開会の前の早い段階で完成するのかもしれないなと感じました。建物の位置関係も分かり、東京湾と運河に面する棟は下層階でも眺望は良さそうです。

 

リゾート地のような場所と言えるかもしれません。通勤を考えなくていい人、例えばリタイアしたシニア世帯や、ホームワーク、テレワークが可能な人には毎日が楽しいかもしれないなあ。そんなことも頭をよぎりました。

 

非日常が日常になる」という、有明のマンションの広告で使われたキャッチコピーを同時に思い出しました。観光資源とでも言える、フジテレビ本社・アクアシティお台場・デックス東京ビーチ・パレットタウン・船の科学館・大江戸温泉物語・日本科学未来館・東京ビッグサイトなどの集客施設がお台場から有明エリアにかけて多数集まっています。広大な緑地もあって、ここは非日常的な暮らしができる。しかも休暇を取って遠くへ旅行するのではなく、日常的に楽しむことができるのです。確か、そんな意味合いを込めてのキャッチコピーだったと記憶しています。

 

通勤の足は「りんかい線」と「ゆりかもめ」。

広々として開放的、タワーマンションなので、東京タワーやレインボウブリッジなどを望むことも可能。そんなマンションが有明エリアには10年ほどの間に10棟ほど建っています。

個人的には、ライフラインが地中に埋設されていて、電柱がない街並みは美しいと思っています。

 

さて、選手村マンションはネーミングがHARUMI  FLAG(晴海フラッグ)となったようです。分譲マンションだけでなく、賃貸マンション、シェアハウス、ケアレジデンス、シニアレジデンスなど、あらゆるライフスタイルに合わせた住まいが、活気ある街を生みだします、とアピールしています。


(配置図の画像:物件公式ホームページ)

 

ここには、既に稼働している清掃工場があり、消防署もあります。新たに小中学校ができ、マンション住民を受け入れるのでしょう。整備される公園もきっと素晴らしいものになるでしょう。上の図の下部、4街区の下側にある「晴海ふ頭公園」は右端の道路を越えて豊洲方面まで長く続くようです。

 

六甲アイランドのようだ」とも感じました。神戸市東灘区に浮かぶ人工島「六甲アイランド」は、その昔「神戸市株式会社」と民間企業並みの発想を称えられた神戸市が、山間部を切り開いて造ったニュータウンから大量に発生した土砂を再利用して造った島でした。

荒涼たる砂漠のような状態だった島に電車(ゆりかもめのような特殊軌道式の新交通システム)を走らせてJRと連絡することで住民の足を確保したのです。そこに、積水ハウスを中心に4000戸の分譲マンションを完成させています。

 

4000戸という戸数は、選手村マンションの分譲戸数に合致しているのが奇妙です。ともあれ、六甲アイランドは陸の孤島でも離島でもなく、1本の交通システムと道路でつながたのです。

 

●4000戸も売れるか?

選手村マンションの販売の詳細は分かりませんが、いずれにせよマンション分譲は未完成の建物をモデルルームだけで青田売りしてしまうのが常識です。そのことに慣れているデベロッパーのこと、オリンピック終了後に改修される内装をモデルルームとして造り、それをツールにして販売することはわけないことです。

 

WEBサイトに「予告広告」が既に出ています。それによると、販売開始予定は2019年5月下旬と明記されています。

 

計画戸数という項目を見ると、住宅5,632戸(分譲住宅街区4,145戸、賃貸住宅街区1,487戸(シニアレジデンス、ケアレジデンス、シェアハウス含む))他に店舗・保育施設、商業施設と記載されています。

 

4145戸を何年で売るつもりなのでしょうか?

物件概要のページを開くと、建物竣工予定時期:2022年秋、入居予定時期 は2023年3月下旬とあります。タワー棟は2024年のようです。

 

改修期間がかかるからでしょうか、2019年の販売開始から引き渡しまで3年、タワーを含めると4年をかける計画なので、販売期間も4年でしょうか?

 

筆者の研究では、1物件が1年で集客できる戸数限度は概ね1,000戸なのです。4000戸あれば約4年かかるはずなので、オリンピック後に販売開始などと「のんびり構えていられない」と考えたのでしょうか?真相は不明ですが、時間はあまりないのかもしれません。

 

大量のマンションを確実に売るには、どこにもない圧倒的な魅力を持つマンションにしなければなりません。HPには、その魅力の一端が高らかに謳いあげられていますが、通勤の足がBRT(高速バス輸送システム)だけでは販売は難しいので、最終的には「価格の安さ」を打ち出すことが必須です。

 

そのために破格の安値@270~280万円になったものと思われます。街区によって幅が異なるのですが、全体では専有面積が61.06㎡~152.10㎡となっており、広めが中心と聞いているので、中心帯が仮に80㎡(24坪)なら、6500万円くらいで購入できることになります。70㎡クラスで下層階なら5000万円くらいから購入できるのかもしれません。


画像:東京都都市整備局より

(中央にある2棟の50階建て超高層マンションは選手村として使わず、建築されるのは五輪後という)

 

 

●交通便が問題

通勤の足はBRTだけと書きましたが、HPによれば都営大江戸線「勝どき」駅(A3b出口利用)で最も近い棟まで徒歩17分(4街区E棟)、最も遠い6街区F棟と5街区A棟まで22分とあります。

 

これでは、徒歩圏とは言えません。都心への直線距離で見れば近くて魅力的な場所ですが、足がない以上、陸の孤島というほかありません。

 

BRTで勝どき駅に行き、そこから都営地下鉄大江戸線に乗るというケースを想定すると、勝どき駅はプラットホームや地下鉄入り口に長蛇の列が待ちます。1日平均の乗降者数は10万人と10年間で4割も増えたのです。これは敬遠されるかもしれません。

人口急増で人が溢れると問題になっている点では武蔵小杉駅も有名ですが、こちらはJRの方だけ用地を買収してホームを拡張する計画があるので、そのうちに緩和されるでしょうが、勝どき駅は地下鉄なので、簡単ではなさそうです。

 

東京都は当初、五輪までに築地市場の跡地に環状2号道路を通し、虎ノ門から新橋、築地、晴海を通って豊洲を結ぶ片側2~3車線の大動脈をつくる計画でした。ここにBRTを走らせるのです。BRTはバスと路面電車を組み合わせたような新型の交通システムですが、専用レーンを設けるわけではないので、複数の車両を連結するなどして通常のバスより大量に輸送できるようにするとは言うものの、果たしてうまく都心に輸送できるのでしょうか?

 

BRTなら晴海からトンネルを通って新橋駅まで約10分。信号の少ないトンネル中心のルートのため定時運行しやすい。通勤時は3分間隔で走らせ、1時間に2000人、将来は同5000人を運べると都は考えているらしいです。賃貸との合計で5000戸のマンションから、朝、7000人か8000人を1時間に2000人ずつ運ぶということは、どう考えても通勤ラッシュは3時間も続くことになるのではないかと想像してしまいます。

 

1980年代以降、都は臨海部をオフィス主体の副都心として開発しようとし、起爆剤にするはずだった世界都市博覧会が青島都知事の命令で中止されました。その後、タワーマンションの建設が相次ぎ、臨海部の位置づけはオフィス街から住居地域の色彩が濃くなりました。

急激なマンション開発で、勝どき駅や隣の月島駅はパンク状態なので、BRTに頼らざるを得ませんが、渋滞なしで運行できるのか、10両連結の電車ではないのですから、通勤の足としては甚だ疑問です。。

 

●価格は格安だというが、これも疑問

調べてみると、「不当に安く売却」したとして周辺住民らが提訴したのだそうです。都は2016年12月、選手村建設を担う大手不動産11社との間で、中央区晴海の都有地約13ヘクタールを約129億円で売却する契約を結んだ。坪あたり約33万円。周辺の路線価は250万円だそうです。実勢価格は300万円を超えるだろうとも言われているそうです。

 

オリンピック選手村は建設費用に加えてリフォーム費用が別途かかる。選手村で使用する間取りからの変更や、パラリンピックのための車いすに対応した浴室・エレベーターの設置など、一般のマンションとして販売するには大幅な改修が必要になるからだ説明しています。五輪組織委員会が大会後にマンションとして売り出すために必要な改修費を約500億円と試算しています。

 

新聞には分譲坪単価@270~280万円とあります。勝どき駅~月島駅の新築相場が350万円だから、そんな安い価格で売り出したら地域のマンションは値崩れが起こるという心配を口にする人もあるようです。

 

単純比較では相場の2割安なので、確かに破格のレベルですが、マンションの価値は立地で決まる比重が高いのです。バス便の選手村マンションが、いかにフラッグシップになる立派な計画であろうとも、立地の不利をカバーしきれるものではありません。まあ、徒歩10分かそこらの立地なら別ですが。

 

そう考えたとき、@270~280万円という価格が安いとは言えないのです。したがって、値崩れはないと筆者は考えます。

 

マンションの価値は、物件固有の条件によって判断されるものです。好みも人によって異なります。郊外のバス便マンションとは明らかに違うことは分かりますが、バスと聞いただけで敬遠する人、湾岸エリアを好まない人、いかにも団地という街並みに抵抗ある人もいるのです。

 

このように考えを巡らすと、駅前のマンション、あるいは超高級マンションばかりが集まる佃島のマンションなどの人気がなくなる可能性は小さく、値崩れは考えにくいのです。勝どき駅でも、坪単価400万円もする中古マンション(タワー上階)を選択する階層は、駅から遠いマンションにはどんなに安くても向かわないと考えられるからです。

 

とはいえ、駅から近くもなく、付加価値も何もない普通のマンションの人気は低下し、影響を受ける可能性がないとは言えません。結局は物件次第ということでしょう。しばらくは目が離せないことになりました

 

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「無料相談」のできる三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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