マンションの修繕積立金には、国が示す「目安」がある。ガイドラインに沿っていれば安心だと受け止める人も少なくない。だが、その物差し自体が、国土交通省の検討会で見直しの対象として議論されていることは、あまり知られていないのではないか。
修繕積立金に関するガイドラインの目安は、現時点でも令和6年6月改定版が最新であり、過去の長期修繕計画事例の平均から算出された参考値にすぎず、個々のマンションの適正額を保証するものではない。目安だけを見て安心するのは、まだ早い。
目安は非公開の場で見直し議論中──国交省検討会の中身
国土交通省は「マンション管理計画認定基準の見直し等に関する検討会」を2025年11月に設置した。設置の根拠は同年5月のマンション管理適正化法一部改正と、2024年6月の標準管理規約見直しワーキンググループとりまとめである。この検討会の第2回(2025年12月)・第3回(2026年2月)では、いずれも「修繕積立金の額の目安について」が正式な議題として資料に挙げられている。ただし当該資料は「検討会限り」として非公開のままであり、公開されているのは議事概要のみだ(次図)。
第2回の議事概要には、目安の水準そのものに疑問を投げかける委員発言が記録されている。目安が「過去の実績から算出するため、建築費の高騰などを踏まえると、過去の実績と現状にギャップがあるため、低く出ているのではないか」という指摘だ。
委員は根拠として、(一財)経済調査会「マンション修繕費指数」を挙げた。2013年を100とした同指数は2025年に161.1へ達し、直近2年間で22.2ポイント上昇。2年間の伸び幅としては過去最大である(次図)。
事務局はこれを受け、「建築費の高騰、激変というご意見もあった」ことを認め、新築マンションと既存マンションとで認定基準を分けて検討する素案を提示した。
一方、2026年2月の第3回でも資料2は同様に非公開のまま配布されているが、公開された議事概要にこの論点への言及は見当たらない。目安の水準に関する審議がどのような結論に至ったのか、2026年8月20日時点でも公表資料からは確認できない。
ここまでの流れを整理すると、次のようになる。
- 2025年11月:検討会設置
- 2025年12月(第2回):委員から「目安と実勢のギャップ」が指摘される
- 2026年2月(第3回):同じ資料は配布されたが、議事概要にこのギャップへの言及なし
- 2026年8月現在:目安の見直し方向は非公開のまま、審議の結論は不明
制度の外側で進む資材高騰
制度側の議論とは別に、市場では実際にコストが動いている。中東情勢が緊迫化した2026年2月28日以降、原油・石化製品由来の建設資材価格も上昇している。
日本銀行の企業物価指数(2020年平均=100)で確認すると、シンナー価格指数は2026年2月の138.3から6月に209.8まで急伸し、7月時点でも203.4と高止まりしている。塩化ビニル管等プラスチック管の指数も、2月の152.9から7月には178.2まで上昇した(次図)。
石油由来資材を中心に、情勢緊迫化以降の数か月で価格が跳ね上がったことが定点観測から確認できる。
三層が示すもの、今できること
ここまで、制度(ガイドライン)、非公開の検討会、そして市場という三つの層を重ねてきた(次図)。修繕積立金の目安そのものは令和6年6月改定版のままだが、目安と実勢の乖離は検討会でも市場でも既に表面化している。非公開審議の結論は現時点で公表されておらず、確認できる情報はここまでである。
目安の数字を疑うより先に、自分の住戸の話として確認しておきたいことがある。
- 提示された修繕積立金は、いつの工事費を前提に組まれた計画か
制度の結論を待つ理由はどこにもない。ガイドライン自体が、目安を「参考値」と位置づけている以上、答え合わせは各マンションの手元でしかできない。
あわせて読みたい
- 首都圏中古マンション、「管理費」と「修繕積立金」のバランスに異変──築浅物件で広がる“ワニの口現象”
首都圏中古マンションの管理費と修繕積立金を建築年別に分析。近年の物件で広がる負担構造の変化を可視化した。
























コメントを残す