第244回 「あなたが自宅売却の営業マンになるとき」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

我が家を売るときがやがて到来します。永住するつもりの人は別ですが、人生90年時代がそこまで来ている日本なのです。現在の年齢から見て、あと50年は生きるであろうと想像するなら、同じ家に他界するまで住み続ける可能性は低いと考えるのが自然です。

 

よしんば永住のつもりで買ったとしても、マンションは共同住宅ゆえに何かと不都合が出て来るものと思っておく方がよいでしょう。

 

さて、転居のときに自宅マンションをどう処分するかですが、売却もあれば賃貸して保有し続ける方法もあります。今日は、買った家をいずれ売るとき、いかに上手に売るか、すなわち少しでも高く売る方法について整理してみることします。

 

これから自宅を買うとい読者にとっては早すぎるテーマと言えなくもないのですが、将来高く売れる可能性の高い買い物をした方が満足度も高いはずですから、今日の記事はきっと役立つことでしょう。

 

●中古マンションの売りにくさ

中古マンションは新築に比べると、恒常的に在庫が市場に溢れています。首都圏の場合では、買手1に対し10もの売り物があるのです。売り出し戸数の割に成約戸数の割合が低いことが原因です。

 

最近数年、絶対数で中古マンションの成約件数は新築を上回っていますが、成約率の低さは依然として際立っています。新築は売れ行きを見ながら売出し戸数を調整するので、発売初月の成約率は70%前後と高く、中古市場とは対称的です。

 

優良な中古マンションは、市場に出るか出ないうちに買い手がついてしまうとも言われます。しかし、これは例外です。上記データ(売り出し10で成約1)は、中古マンションは売れ足が鈍いことを意味しています。

 

原因は売り方の差にもありますが、最も大きなものは建物への不安が払拭しきれないためです。

 

新築マンションは、大々的な広告宣伝と華やかな商品展示(モデルルーム等の演出)によって顧客動員を測ります。特定マンション1物件(戸数は多数)の販売のために販売スタッフを大量配置するなど、専従態勢を敷きます。その結果、短期間に100戸、200戸と販売が進むのです(もっとも、最近数年は売れ足が鈍っていますが)。

 

これに対し、中古マンションは物件個別の宣伝は殆んど行ないません。

販売担当者も1物件を専従的に売ろうとはしません。より売りやすいものへと意識も行動も移って行くため、中々売れない中古物件も多いのです。わずか1戸が3か月たっても売れないなどというのも「ごく普通のこと」です。

 

新築マンションの販売現場では、あらゆる角度から買い手の不安を払拭する準備・営業努力が傾倒されます。そうする理由は単純明快です。自社商品だからです。売れなければ経営を危うくしかねないからです。

 

耐震性や耐久性などの基本構造をはじめ、建物の性能に関する説明を丁寧に行ないます。床下や壁の内部など見えない部分については、断面模型などを使ってアピールします。ガラスの断熱性や防音サッシの性能は、メーカーから借りて来た模型などを使って体感できるようにしたりもします。

 

免震構造の効果をアピールするために、一般の耐震構造との差を模型の揺れで実演している例も見られます。これらのデモンストレーションは、モデルルームを見学した経験をお持ちの読者なら「アッ、あれか」とお分かりいただけたはずです。

全て買い手に「安心感」や「納得感」を与えたい意図から用意された仕掛けです。

 

これに対して、中古マンションは実物を目視するしかなく、壁や床の裏がどうなっているかなどは全く分かりません。工事中の新築マンションを買うのと違って、実際の景色や日当たり、管理状態を確かめることができるという、一面のメリットがあるものの、それだけでは安心できないのが普通です。

 

また、新築マンションでは最長10年のアフターサービスと定期的な点検なども行なわれますが、中古はアフターサービス期間内でも、初代購入者でない限り分譲主からの保証を受けることができないのです。瑕疵担保責任についても同様です。

 

自分が購入した後に、これまでに表面化しなかった欠陥が出てきたらいやだなと思っても、2代目の所有者には分譲主に保証を求める権利はありません。「現状有姿(げんじょうゆうし)」という、買い手が見たままの実物取引が中古売買の常識なのです。

 

仲介業者の保証制度もありますが、内容を精査するとやはり限定的です。

 

売買契約書には「引き渡し後3か月以内なら、修理や交換に応じる瑕疵担保責任を有する」と明記されていますが、保証範囲はコンロや給湯設備に限るのです。これでは不安を拭いきれないのも道理です。

 

●中古マンションを購入するときの拠り所は?

では、中古マンションを買った人たちは、どこに安心の拠り所を求めたのでしょうか?あるいは、どのような考え方をして決断に至ったのでしょうか?

 

これは個人差のあることで、また的確な調査データも発見できず、分かりにくいテーマですが、筆者の独断と偏見とお断りして例示します。

 

①大手マンションメーカーの分譲したマンションだから大丈夫だろう

②大手ゼネコンが施工したマンションだから大丈夫だろう

③先の大地震でも特に修復が必要な箇所はなかったと説明を受けた

④内見中、室内はとても静かだった。遮音性も悪くはないのだろう

⑤清掃が行き届いており、管理状態も良さそうだ

⑥管理人さんの目が光っているし、オートロックなのでセキュリティも良さそうだ

⑦管理費等の滞納者がゼロと説明を受けた

⑧売る人が少ないというから、きっと良いマンションなのだろう

 

大体こんなふうに考えて自身を納得させたのだと思います。

ここで気付くことがあります。分譲主と施工会社が大手というくだりです。逆に言えば、大手の物件以外は不安が解消できないことになります。

 

ところが、気に入って買いたい欲望が強まると、マイナス思考よりプラス思考というか、楽観的というか、そのような心理状態になるようで、

⑨疑ったらキリがない。まあ大丈夫だろう

⑩住んでみて不具合があったら売ればいいさ

・・・などと自分に言い聞かせて不安を打ち消すのです。

 

●中古マンションを検討するときのスタンスは?

中古マンションを買おうかというとき、買い手には、内覧の際の観察ポイント、見えない部分の指摘事項、調査方法など、一定の予備知識が必須です。しかし、それでも十分に納得できる回答を得られない可能性が高いのです。

 

2000年から始まった「住宅性能表示制度」によって、建物品質に関する客観的指標が新築マンションの物件ごとに提示されるようになりました。最近は推定90%くらいまで普及して来たようです。

 

住宅性能表示制度とは、新築・中古住宅の性能を専門家が評価して、分かりやすく表示する制度のこと。住宅品質確保促進法(品確法)に基づき、国に登録した専門機関の評価員が共通の評価方法で性能を確認するものです。

 

その結果が「等級」などを使って分かりやすくした共通の方法で表示されます。評価の結果は住宅性能評価書として交付されます。

 

今後は、中古マンションの売買事例の中に「住宅性能保証付き」の物件が増えて来ることでしょう。一方、仲介業者が一定範囲で品質保証を行う例も出てきました。しかし、いずれも、緒に着いたばかりです。中古マンションを購入するときは、買い手自身の目利きや知識が鍵を握りそうです。

 

●自宅売却・そのときが来たら

ここまで述べたことは全て前置きのようなものです。いかに中古マンションが売りづらい・買いづらいものであるかをご理解いただくためでした。ここからは、将来の売却にどう備えておくかという本題です。

 

マンションの売買は、お見合い結婚のように、一目惚れの幸運に出くわせれば結構ですが、そうは問屋が卸さないことが多いと覚悟しておくべきです。惚れて買った我が家も、歳を取って機能も見栄えも悪化し、市場価値は低下してしまうのです。

その前提に立って、将来の自宅売却を考えて置く必要があります。

 

自宅の売却は、一目惚れしてくれる買い手をじっと耐えて待つか、腕のいい仲介営業マンに頼るしかないのでしょうか?

 

商品は展示しておけば足りるというふうに、自慢の我が家なら結構ですが、客観的に見て高い価値を持つ我が家であるとしても、より高く売りたいと考えるのが普通ですし、そのためには「座して結果を待つ」のは芸がないというほかありません。

 

では、営業マンに個人的に特別ボーナスでも約束する(昔そんな手法があった)などして、よくよく頼みますか?中には、外交辞令ではなく実際に誠実な活動を行い、買い手を口説く構えを見せる営業マンも存在しますが、結果は当てになりません。理由は既述の通りです。腕のいい営業マンに当たる確率も低いものです。

 

そこで、筆者は所有者・売主が自ら腕のいい営業マンになることを勧めます。といっても、いかにも「営業しています」という姿勢では警戒されて逆効果です。では、どのようにすればいいのでしょうか?

 

●所有者こそが最高の営業マン

先に見た通り、中古マンションの買手は不安心理が強いものです。そうであれば、先ずはその解消に努めればいいということになります。

 

見えない部分、例えば耐震性や耐久性などの「構造に関する部分」や「省エネ性能」、一見しただけでは分からない「管理サービス」や「上下階・左右からの音」、「環境」などに関して説明することです。

 

と言っても、聞かれもしないことにペラペラと喋ったりすることは抵抗があるはずです。また、売り急いでいるなどと勘繰られ、逆効果になるかもしれません。

 

筆者がお勧めするのは、「資料の整備」という方法です。つまり「販売ツール」を効果的なカタチにして見学者に見せ、コピーを持ち帰ってもらうのです。

 

単に「分譲当時のパンフレットを渡す」では不十分です。住宅性能評価書なども、形式を見ると分かりにくくて使えません。シンプルに、例えばQ&A式の資料を作成し、パンフレットの中から抜粋した資料と合体させて10ページか20ページくらいのクリアファイルに納めるという方法が考えられます。

 

手作りの販売資料ですが、タイトルは「新しく所有者になられる方へ」などとしても良いでしょう。安心して住んでいただけるための資料作りというスタンスです。キーワードは「不安解消」です。あなたが、買い手であったときのことを思い起こしながら作成するのです。

 

「何故この家族は売却するのだろう。何か問題があるのは?」と、このような疑念も見学者の多くは持っているものです。そうしたことにも軽く触れるといいかもしれません。

 

こうした資料作りのためには、購入時の資料や悩んだ経緯などを書いた記録などを大切に保管しておくことを付言します。10年後か20年後か分かりませんが、売却のときの資料作りにきっと役立つはずです。

 

●売却の準備:資料の作成

売却を依頼する仲介業者も様々で、WEB紹介サイトを見ると、丁寧な物件紹介に努めているところもあれば、僅かな情報に留めているところもあることが分かります。

同じ仲介業者でも店舗によって差がありますが、おそらくは販売戦略の違いというよりベースとなる資料が紛失しているためと推測できます。

 

その気になれば、もっと多くの情報を収集できるのに、できないのは何故だろうか。ときどき、そう感じることがあります。あえて細部は公開しない方が良いと考えているのか、売主さんからの提供資料がないからなのか、実際のところは分かりませんが、WEBサイトで発信されている情報には大きな差異があります。

 

WEBサイトのページは広告ですから、買い手の関心をいかに惹きつけるかという観点が必要なはずです。そもそもの条件が悪くて反応の少ない売り物件であったとしても、最大限の創意工夫によって顧客(見学者)獲得に動くのが業者の務めであるはずです。

 

しかしながら、現実は疑問を禁じ得ないサイトが少なくありません。厳しく言えば、売る気があるとは思えない事例も散見されます。

 

本稿は個人の売り手向けに書いています。

業者にすべてを依存するのではなく、業者が活動しやすいよう情報を提供するとともに、売り手としてできる販売促進策を紹介しようという狙いがあります。

言い換えれば、売却を依頼する業者の活動を助力する手立てを紹介するものです。

 

仲介業者の販売活動で必須となる写真は、販売開始時点のものとして「〇月〇日」撮影と付記してホームページに載せるので、10年、15年先には使えない場合もありますが、販売時に使用された以下の写真は極力残しておくとよいでしょう。

 

*外観

*1階エントランス(外から撮影)

*エントランスホール内部写真

*住戸玄関写真(外側)

*住戸玄関(内部)・・・通風窓や広めの靴脱ぎ部分

*浴室

*洗面化粧室

*キッチン内部(設備写真を個々に)

*バルコニー・・・プランターでグリーンを飾ったものが望ましい

*キッチンから見たリビングダイニング

*リビングから見た引き戸の個室

*リビングからキッチン方面

 

●見学者を迎えるキーポイント

①新築マンションのモデルルームに近づける

新築マンションのモデルルームを参考にするのがコツです。大事なポイントは、可能な限り生活感は消すことです。

例えば、玄関を狭くししているベビーカーがあれば、見学者が来たときだけどこかに隠すとか、キッチンにぶら下げているクッキング道具は少しだけ残して一時収納するといったことです。

 

商品展示は最強のセールスマン」なのです。これをおろそかにしてはいけません。筆者は、自分の売却経験からもこだわりたい部分と考えます。新築マンションのモデルルームを見て、プロの業を参考にしましょう。

 

②おもてなしの心で見学客をお迎えしましょう

「買って下さる方かもしれない」大切な来訪者です。心を込めてお迎えしましょう。スリッパの用意は当然、真夏なら冷たいお絞りもさりげなくお渡ししましょう。

 

③さりげないセールスを心掛けましょう

「自作パンフレットお渡し作戦」としておきます。表紙タイトルは「新しくオーナーになっていただく方へ」がよいでしょう。仲介業者さんからお渡しいただく方がよいかもしれません。

 

クリアホールダーの類に入れてお持ち帰りいただくのがベストですね。

物件のセールスポイントをしっかり記憶してもらう(目に焼き付けていただく)ことが大事ですが、目に見えない性能などに関しては記憶が曖昧になるので、プリントを渡すといいのではないかと考えます。

 

こんなことをする個人の売り手は殆どいないと思います。多くは資料を束のように置いているか、問われたことに答えるだけです。一考の価値ありとは言えないでしょうか?

 

<ページ構成の例>

P1:私たちがこのマンションを選んだ理由/気にいっている点

(このページには購入時に「売主の営業さんからお聞きしたこと」の副題を設けた方がいいかもしれません)

例:分譲主が大手「●●不動産」である/施工会社が大手ではないが長い経験と実績豊富な「●●建設」なのでアフターサービスの機動性も高い」/全3棟の●●戸の大型マンションなので存在感ある/大型なので管理費・修繕費が割安/管理人さんが8時から5時まで勤務しているので何かと安心(目が行き届く)/南側に大規模な建物が建ってしまう危険がなさそうである/イオンまで徒歩5分(?)なのでお買い物もラクラクですetc.

 

P2:やや物足りない点/売却をしたい理由

 

P3:間取り図

 

P4:ごみ置き場と集合郵便受けの位置が分かる配置図

 

P5:設備概要/1ページですべて分かる箇条書きがベター

 

P6:暮らしのマップ(小学校・中学校・買物施設・ランドリー・花屋さん・医療機関・銀行・市役所の出張所・飲食店 etc.)

 

P7:建物に関すること(耐震性・耐久性・省エネ性など「住宅性能評価書」から抜粋)

例:耐久性:「コンクリート劣化防止性能の最高等級3」となっております/省エネ性:「最高等級4」となっております。

 

P8~P9:仲介業者作成のチラシまたはWEBサイトの転写

 

以上のような資料は、仲介業者としては販売にかかる際、日常業務として当然のように収集して広告(WEBサイト)に掲載してくれるものと思われがちですが、実態は業者によって、また物件によってバラツキがありますし、情報量も内容も差異が大きいのです。

 

既述のように情報を全て開示するのが良いかどうか確信はありませんが、見学希望者を惹きつける手段として、広告は最大の武器であることは確かです。その広告の効果が見学者を呼ぶのです。

 

見学者が引きも切らないという状況が期待できる魅力的な物件であるとしても、中古マンションを購入する買い手には不安がつきものです。できるだけ多くの疑問や不安に円滑にお答えするという販売者の姿勢は保たなければなりません。どんなに魅力的な物件を所有していたとしても、「買っていただく顧客」をお迎えするので、それなりの態度は必須です。

 

・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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