のらえもんさんのスムログブログでも紹介のある、さくら事務所の長嶋さんの新刊「100年マンション 資産になる住まいの育てかた」に関連して。
第3章の事例紹介の冒頭に18ページに渡ってうちのマンションの取り組みをとり上げて頂きました。
“視点が高い”かな
マンション管理をテーマにした本は結構あってその殆どを持ってます。いきなり理事になっちゃった人が慌てて買い求めるか、管理コスト削減など割と即効的な1-2年といった期間で実現可能な話題を扱うことが多く”理事初心者”向けが多い。過去の管理本はコストカットを手掛けるコンサルさんの「販促ツール」となっていて、とにかくコストは削減できる!とか、管理会社にはボラれてる!とかの話題が延々と書いてある割に結論は”私にお金払って任せなさい”。実は読みたい肝心のことが大抵書いてありません。
例えば戸数や面積がどれだけのマンションなら、管理員や清掃員はどれだけ雇用が必要で、その妥当な管理会社への支払いはずばり1時間いくら・・・とか詳述してあるわけではない。管理コスト適正化は内容をばらばらにばらして単価積算するわけですが、コンサル本人の”メシの種”の奥義を本に書く筈はない。
もっともわからなきゃお金払って頼めばいいわけで、今回の本もそんな内容を扱っているわけではありません。マンションにとって一番大事なことは、
”理事会が長期にわたってしっかりしていること”(ガバナンス)と、
”財政がしっかりしていること”(ファイナンス)に尽きると思います。
管理コストを削減できても、多くの場合管理費は削減できません。大抵売主の陰謀(?)で初期設定から一般会計の削減可能額<<積立金の徴収不足だから、管理コストの削減は、積立金を適正に値上げするための入口の”手段”にすぎなくて、全体を数年がかりで取り込む場合が殆ど。
積立金の問題は、修繕周期の長周期化まで考えると40-50年の話になるので、そのくらいの長期的視点での理事会の継続的に取り組みが必要。この本は「とても長いタイムスパンでみた理事会の目指すべき方向性」を扱った本で評価できると思います。一言でいえば”視点が高い”。
きちんと取り組んでいかないと、10万を超える無数のマンションが古くなっていくなかで”生き残る”ことは困難だという主張が明確なのが私は気に入りました。今のまんまだと、半分くらいのマンションがスラムになっちゃうかもって危機意識が理事長などハードに理事会をやっている側にはあります。
管理で値段は変わらないと私が言った?
多くのマンションは12年周期で大規模修繕、30期に設備系の大きな入れ替えをいれていて、12/24/30/36の4回で巨大支出があるというのが標準の修繕計画です。この通り進めていくと最初の23年で大きな工事は1回、その後の13年間に3回になります。積立金問題を理事会が放置していてヤバいのはこっちの3回。最近は販売時に一時金を大目に徴収するマンションも増えたし、初回工事は安く済むから、案外放置でも”初回の工事だけ”は実施可能です。ずっとせっせと貯金してきた「アリさん」と、まぁなんとかなるでしょで放置してきた「キリギリスさん」の組合の財政状況の差が顕在化するのは、20年目あたりになります。実際に地元の仲介の不動産やさんがあそこは管理が違うからで値段に差がついてくるのはこのあたりから。まともにやっていると下げ止まりますね。
なのでのらえもんさんへの相談者みたいに、積立金が高いマンションのほうが築浅の間は短期所有目的の人には敬遠されるということは起こりえる。
10年以内に住み替えて、20年も住んでないからそんなことは気にしないという”沖さん推奨”風な生き方もありかもしれません。一方で実際には子供の通学だのでそんな簡単に10年ごとに住み替えなんてできません。家を買って住むということでいろいろお付き合いもできてきます。その地域の住民として根を下ろすということです。
理事会は腰の座っていない”空中族”ではなく、ずっと一生そこに住んでいる人の味方であるべきかなとは私は信じているわけです。
管理がいいと資産価値が上がる?
「管理がいいからで値段が特に築浅であがる」という例は希少でしょう。一方で初回修繕前後から”値段が下がる”スピードを食い止めることは可能だとは言えると思います。これは、のらえもんさんとの過去の対談でも書いたことですが、スムログからも読める管理編のらえもんとの対談
目減りを食い止めるように理事会が施策をうちだしていっていった場合限定。
マンションの減価率は平均で4万円/年/坪くらい。長期的には古くなることで1㎡あたり月1000円安くなっていくわけで、これは案外大きな数字です。一方とても贅沢をしているタワーとかを除けば1㎡200円も積立金を確保すれば(つまりせめて100円/㎡/月値上げすれば)修繕してそこそこなレベルにキープ可能です。
中古で買いに来る人は、どれだけへたっているかな?を確認にくるわけで、特に建物そのものなど共用部分は、専有部とは違って売りに出している人がリフォームしてカバーすることはできません。あっちこっちヒビ入ってるのに放置だな… と思われて買い手が部屋に入る前に萎えているというのはとても損です。
最近の都内の新築マンションは、普通に1㎡100万円とかのお値段がするわけで、1㎡100万円するものを、同じ面積にあと月に100円ほど払えば綺麗にキープできるのに放置でわざわざ腐らせて、減価を加速するものでもなかろうと思うわけです。
・・・特に全てのタワーの積立金は直ちに200円/㎡以上にはあげようよが私の持論。元が高いもの・新しいものほど効果は大きい。
とはいえ手間がとんでもない?
のらえもんのブログにははるぶーとんでもない手間をかけて・・・とでてくる。本の第3章にでてくる事例はどれも大変そうで真似できないよと思う読者も多いかもしれません。多くのマンションが5-10年くらいかけて進めてきた改革の説明になるわけで、それだけ長期での理事会の政治的安定性を確保しなさいとなると、かなり中・上級編になります。
実は事例に5箇所でてくるうち4箇所までが、理事長の会RJC48の加盟マンションです。RJC48で5年前に中心メンバーだった理事長さんは今も理事長さんの場合がとても多い。私も1期からずっとやっていて理事長ではないですが今10年目。とても属人的なもので、たまたま1000-2000戸に1人現れる覚醒した人がリーダーを勤めているから可能なのだといわれると確かにその傾向はあるかもしれません。
管理はよくしていくのは数年がかりですが、それが規約なりできちんと「制度化」されていないと、ダメになるほうは本当に瞬間です。スーパー理事長がいなくなったら即落城ではもったいないわけで、みなさん「制度として残す方法」に一生懸命で、この本にでてくるようなマンションは非常に規約・細則の改正頻度が多く、理事の選任方法や、理事会運営など”理事会のガバナンス”整備に関わる規約整備に熱心なのが共通点です。管理費や積立金の徴収が上がるとかと違って住民の関心は引かないのですが、地味に重要。特別決議でもさっさと総会を通るので、まいろいろ手を打っておくにしくはないわけです。
これ誰がやるの?という問題は確かにあります。一方中古であれば管理がまともか?を確認して買えるわけですから、どんな理事会が生まれるかわからない新築よりは安心度はある気はするわけで、私は次に住み替えることがあるとすれば中古かな。
【新築では抽選に当たらないとか一部の人には言われるし・・・】
管理のよさの数値指標化とその普及も大事かも
第4章では”16の提言”が扱われていますが、もっと政府など行政側が、良質の住宅ストックの積み上げに力を入れないとという政策提言もかなりの割合を占めています。堅牢な財政状態を築きあげたマンションがなにかの客観的な指標で”良質である”と評価を受けられるような数値指標が必要な気はするわけです。”理事会の活発度”なんてのは数字にはなりませんが、財政状況は数値化も可能です。
本の3章の白金タワーのところでは、純資産が15億で、BPS(1議決権あたりの組合資産)が240万円だとでてきます。タワーと違ってうちみたいなファミリーマンションだと1戸が1議決権が普通ですから、普通のマンションでは1戸あたりの資産額といってもいいでしょう。うちは積立金会計の剰余金などの合計額が10期で9億円ほどなので、1戸あたり180万円ほどのたくわえを組合としてもっています。最速で3年先に大規模修繕工事になるかなという期数ですが、たった今でも1回大規模修繕工事をすることも計画上は可能で、今貯めているお金はその先に備えているものです。
これが半分のマンションよりは、少なくとも1戸あたり90万円は高く評価してもらいたいなぁとか思ったので、”戸あたり純資産額”(BPS)という考え方は広がってほしいなと。積立金は高いけど、それだけ組合は潤沢な将来への蓄えを”貯金”しているわけですから。
管理状態の”良し悪し”はもっと”見える”化されるべきかなと思っています。
他のスムログブロガーの書評はこちら
のらえもんさんのメインブログでの書評はこちらhttps://wangantower.com/?p=15607
同じくのらえもんさんのスムログでのこの本をもとにしての論考ははこちら
https://www.sumu-log.com/archives/12325/
マン点さんのメインブログでの紹介はこちら
https://1manken.hatenablog.com/entry/100nen-mansion
!! 重要 !!
本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません。
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