第116回 新築マンションの価格硬直性

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最近こんなお便りをいただきました。「そのうち景気が悪化して安くなるだろう、という読みが全くあたらず、そろそろ決断をすべきと感じています」

 

その一方、あるコラムに「こんなに高くては手が出ない。当分様子を見るほかないなあ」という記述がありました。

 

読者の皆さんは、今の状況をどのように分析していらっしゃいますか?

 

本ブログでは、このお答えに近い記事を過去に何度か投稿して来たつもりですが、お読みいただいていないか、筆者の観測を誤りと感じていらっしゃるのか、2018年の念頭に当たり、改めて価格の予測を述べようと思います。

(なお、記事の一部が昨年5月の第67回と重複するところがあります。両方お読みなるといいかもしれません)

本音をいえば、67回の記事のアクセスが急に増えたので、もう少し充実させようと思った次第です。

 

●買いどきではないのは確かだが

景気が悪くなって安くなるというのは、アベノミクスが失敗して不景気になると物は売れなくなって安くなるという意味なのでしょうか?

 

多分、不景気になるというのは、マンションが売れなくなるという意味で、その結果、価格が下がるだろうと読んだのでしょう。しかし、その読みはなぜはずれたのでしょうか?

 

また、今も様子を見るという人は、どういう変化を期待しているのでしょうか?価格の下落が起こるかもしれないと思っているのでしょうか?

 

これらの疑問にお答えしようと思います。

 

さて、今がとても高いときであることには誰も異論はないでしょう。なぜなら、新築マンションも中古マンションも2013年から急カーブ、緩やかなカーブの差はあっても、2017年まで毎年上がり続けて25%以上も高くなったからです。ざっくり言えば、平均5000万円だった新築マンションは、6250万円になってしまったのです。

 

今後、この価格が下がって6000万円を割り込み、5500万円くらいに戻るでしょうか?漠然とながらも、そんな予想をしている人は少なくないようです。もし、そうなることが確実なら、そこまで待つのも一手ですが、いつ頃そうなるでしょうか?

 

これらに明確な答えを出せる人は多くないと思います。

 

 

●新築マンションの価格は硬直的です

マンションは市況商品(商品の 需給関係に応じて敏感に変化する商品の総称)ではないのです。売れ行きが悪いから値下がりし、売れ行きが良いから値上がりするという動きは見せません。

 

一般消費財では、在庫一掃セールとか、タイムサービス、決算特別セール、年末バーゲンセールといった形で同じ品質の商品が安く売り出されることがあります。

 

新築マンションには、そのようなものがないのです。売れなければ、やむを得ず値下げするだろうと考えるかもしれませんが、先行契約者の手前、値下げはしづらいのです。

 

生鮮食品なら、朝と夕方で価格が違っても仕方ないと理解されますが、3月完成に向かって工事中のマンションでは、8月に5000万円で売ってみたが、中々売れないからと12月に4000万円に下げたりはできません。先行契約者が「俺たちも4000万円に下げてくれと言ってくるからです。

 

かつて、その問題が表面化して大騒動になったことが何度もありますし、裁判に持ち込まれたことすらあるのです。良識あるデベロッパー(売主)は、そのことで注目されたり不公平と言われたりすることを極度に恐れます。

 

従って、一度価格を発表したら途中で値上げすることはあっても値下げはしないのです。値下げするとしたら、それは個別交渉の中で「こっそり」とやるのです。その場合も「口外しない旨の誓約書」を買い手に書かせたりと、非常に神経質です。

 

●利益を削って価格を引き下げる

まだ1戸も売り出していない物件を予定価格から下げて売り出すということはないのでしょうか?これはあり得ます。

 

というより、過去2年の動きの中から、値下げしたという事実をキャッチしたことがあります。予定価格と称して「ちらちら」とみせていた価格表が正式な発売の段階では明らかに下げた物件がいくつかありました。

 

しかし、下げた住戸のある一方、上げた住戸もあったようです。あったようでというのは不確かだからですが、「正式決定ではない」の理由で価格表を渡してくれないためです。

 

とまれ、一部住戸の値下げに踏み切っても、他で値上げする住戸があったりして、全体ではさほど下がっていないのが実態です。値下げ率は3%以内と見ています。いくつかの物件で計算を試みましたが、5%も下げたという事実はなさそうです。

 

マンションの利益率は存外低いのです。売り出し前から利益ゼロで計画する企業はなく、赤字になるのが最初から分かっているなら、そのプロジェクトは凍結します。土地のままで何年か置いておくことを決断するのです。

 

利幅は10%(粗利から販売経費・広告宣伝費を引いたもの)しかありません。そこから本店経費を捻出するので、下げ余地は5%もないと言って良いのです。

 

売り出し前の価格決定会議では5%以内の下げを議論することになります。プロジェクト10件のうち、1件か2件だけが議論の対象です。他にもあるが、現場からは上申できないのだと聞きました。

 

仮に、全プロジェクトで5%下げ、全デベロッパーが一斉にその決定をすれば、統計上の新築価格は5%値下がりの数値を示すに違いありません。しかし、現実にはそうならないのです。売れ行きが悪いにも関わらず、2016年も2017年も前年比で上昇したのが何よりの証左です。

 

●建築費が下がればマンション価格は下がるのだが・・・

既に購入した土地の原価は下げようがありません。また、既に請負契約を締結し、着工した建物の原価も同様です。下げられるのは、まだ契約していない案件です。安く請け負ってくれるゼネコンを懸命に探せば、実績の足りない中小工務店などで請け負ってくれるところがあるかもしれません。

 

しかし、品質の問題もあって、現実的には簡単な注文ではないようです。

 

では、建築費が全般的に下がるという見通しはないのでしょうか?少なくとも東京オリンピックの関連工事がなくなるまでは人手不足が続くので下がりそうにありません。

 

東京オリンピックまで、あと2年と少しになりました。2年後は下がるでしょうか?その答えは殆ど「NO」です。東京も地方の大都市も今は「再開発ブーム」の状態にあります。これは、オリンピック後も続きます。

 

例を東京に限って挙げると、リニア新幹線の品川駅工事、その関連開発工事、山手線の新駅工事、その周辺開発工事、虎ノ門~麻布台再開発工事、東京駅    側の常盤橋付近で日本一の高さとなる再開発ビル工事など代表的ですが、その他にも多数予定があります。

 

また、耳にする情報では、ゼネコン業界はオリンピック後をにらんで着々と準備をしていますし、うわさほど建築業界の仕事が減るとは思えないのです。

 

また、ゼネコン業界は人手不足の解消策に建設現場に週休二日制を導入しようとしています。新聞によれば、そうなると建築費は原価で7%上がるのだとか。それが実現するかどうかはまだ分かりませんが、そんな動きなども考え合わせると、建築費は下がるとは思えないのです。

 

 

●地価は下がらないのか?

建築費が下がらないとして、地価はどうでしょうか?

 

マンション用地は枯渇しています。簡単に言えば次のような背景があります。

基本的に、日本経済が緩やかながら成長しているため、特に東京は人口も増えているので、土地に対する需要は多いのです。訪日客の増加が新たな需要を生み、ホテル建設だけでも沢山あるようですし、ネット通販の拡大によって物流施設の需要も増えていると言います。

 

このためにマンション用地の取得が難しくなっています。今のところマンション用地の地価が下がる見込みは立てにくいのです。

 

●売れなければマンション開発から撤退か?

マンションは利幅はさほどないが、売れさえすれば商品単価が高いので、利益も大きく妙味がある。そう思われているらしく、そのビジネスに魅力を感じて異業種から参入して来る企業が少なくありません。過去にも何度か進出企業が増加する時期がありました。

 

しかし、ビジネスに失敗して撤退する企業も多く、栄枯盛衰を繰り返して来たのです。土地が中々買えない、建築費が高い、而して売れない、売れないので仕方なく値引きして販売を促進。結果、大赤字に転落し撤退の憂き目を見た企業も多かったのです。

 

異業種の企業は、本来のビジネスに戻ればいいかもしれませんが、不動産業、マンション事業が主力の企業にとっては市況の悪化、その手前で起こる価格の高騰は歓迎できない事態なのです。

 

価格高騰は、はじめ買い手に購入を急がせるので「売れて売れて笑いが止まらない」状況を生みますが、その後は「売れ行き不振に陥る」状況が必ず来ることを知っているからです。

 

大手マンションメーカーの昨今の方針は「無理をしない」だそうです。土地を買わなければマンションという商品は作れないが、かといって無理に条件の悪い土地を買って販売に失敗すれば元も子もないと考えているためです。

 

このような方針のデベロッパーが増えれば、ますます新築マンションは品不足になるでしょう。

 

●価格が下がる期待は持てない

価格は下がりにくいことがお分かり頂けたと思いますが、前回の販売不振期はどうだったかを念のために紹介しておきます。

 

バブル経済崩壊後の下落が止まった2002年から2004年(3年間)は価格の底で、かつ安定期にありましたが、この頃の23区の新築マンションの平均坪単価は約220万円でした。

 

翌年2005年から2008年(4年間)にかけては、毎年上昇して2008年には280万円を超えたのです。2002年からの上昇率は27%強です。

 

2009年には263万円と下落し、2009~2012年の4年間は平均で約265万円となりました。2008年比で5%下落となったのです。

 

そして2013年から2016年にかけては26%弱上昇の332万円となったのでした。

(以上の元データは不動産経済研究所調べ)

 

もう一度、時系列で見ます。

【2002~2004年 底値安定期】:@220万円

【2005年~2008年 上昇期】:@280万円(+27%)

【2009年~2012年 下落期】:@265万円(▲5%)

【2013年~2016年 上昇期】:@332万円(+26%)

 

2004年をスタートして見ると、3年か4年のタームで上昇、下落、上昇という推移ですが、上昇幅は27%と26%、下落幅は僅か5%であることが分かります。

 

つまり、一旦上がると調整局面が来ても、下落幅は元に戻るほどのものではないのです。

 

言い換えましょう。バブル期のような極端な上昇が起こると、崩壊後の下落局面では元に戻るほどの下落を見せる可能性もありますが、上がり方が3~4年で20%台なら、戻っても5%程度なのです。基調としては右肩上がりが続くというわけです。

 

 

さて、予想されるこの先の調整局面では、どこまで下がるでしょうか?

 

歴史が教えてくれていることは、値下がりしても、この4年間の上昇幅(20%台)程度なら、下がっても5%程度から大きくても10%程度に留まる可能性が高いということです。値下がりするのは確実として、その幅が最大10%、歴史は5%だよと教えています。

 

しかし、5%でも大きいですね。5000万円が4750万円になるのですから。

 

果たして、そこまで下がるでしょうか?また、その時期はいつでしょうか?

 

市場全体が平均的に5%の値下がりになるのは2年以上かかることでしょう。それらは、先述のように利益の圧縮という策によるものです。

 

その後、さらに下がるのはいつ頃でしょうか?10%程度まで下がることがあるかもしれません。しかし、地価が下がりづらいので、建築費の下落を待つほかないのですが、先述のように筆者は懐疑的です。

 

筆者の考えでは、「下がっても5%程度で、かつそこに至るのは2022年頃」と思うのです。利益圧縮分と建築費下げ分との合計で10%の価格ダウンとは簡単に行かないと思うからです。最後はそうなるかもしれませんが、その覚悟をデベロッパー各社が決めるまでには時間もかかるはずです。

 

(なお、リーマンショック級の不況が来たり、その逆に物価高や好景気が金利の上昇を呼んだりして、売れ行きが劇的に悪化することは想定外です)

 

 

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価格が下がらない、供給数も伸びないということになると、新築マンションは高値でも手が届く階層だけしか買えないという極めて悲劇的なシナリオができてしまいます。そうならないことを願いつつ、この稿を締めようと思います。

(悲劇的とは適切な表現でないと指摘されそうなので言い換えます。選択に惑うということでしょうか? 発想を換えれば答えは見つかると筆者は思うのです)

 

・・・・・・本日はここまでです。ご購読ありがとうございました。

 

 

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