不動産経済研究所は毎月中旬、首都圏の新築マンション市場動向を発表している。同発表を受けてマスコミが「契約率が好不調の分かれ目の70%」という表現を使って、新築マンションの売れ行き具合を報じているケースが散見される。
「契約率が好不調の分かれ目の70%」という表現は適切なのか?
【もくじ】
◇「契約率」から垣間見える首都圏マンション市場動向
◇「契約率70%」では分からない「負のスパイラル」
◇好不調は「契約率」よりも「市場規模」で判断
「契約率」とは、「当該月に発売された戸数」のうち「当該月末までに売却された戸数」の割合のこと。
「契約率」から垣間見える首都圏マンション市場動向
まずは、首都圏の新築マンションの発売戸数と契約率の推移を可視化してみよう(次図)。06年度を境に、年間の発売戸数が8万戸の時代と、4万戸の時代に2分されているように見える。
この二つの時代の契約率をザックリ比べると、8万戸時代には80%前後であるのに対して、4万戸時代は65~80%に低下している。
(不動産経済研究所が公開しているデータをもとに筆者作成)
さらに分析するために、横軸を発売戸数、縦軸を契約率にして描いたのが下図。大きく3つの時期に区分できる。
(1)リーマンショック前
00年(9.5万戸、79.5%)から08年(4万戸、64.1%)にかけて、発売戸数が半減し、契約率が最低を記録する。
(2)消費税増税前
08年(4万戸、64.1%)から13年(5.5万戸、79.8%)にかけて、リーマンショックの影響を脱して、発売戸数は5.5万戸まで回復し、契約率も00年の水準まで戻している。
(3)アベノミクス
13年(5.5万戸、79.8%)から17年(3.7万戸、68.8%)にかけて、発売戸数は4万戸を割り込み、契約率も70%を割り込む。
「契約率70%」では分からない「負のスパイラル」
上図を模式的に描いたのが次図。「契約率70%が好不調の分かれ目」というよりは、発売戸数が減少することで70%を割り込まないように市場が調整されているように見えないだろうか。
「契約率70%」といっても、8万戸時代と4万戸時代とではその数字の持つ意味が違う。
契約率の分子(売却戸数)と分母(発売戸数)の間には、強い従属関係がある。売却戸数(分子)が減少してくる(売れ行きが悪くなる)と、供給量に下方修正圧力が働き、発売戸数(分母)も減少してくるのである。
契約率という指標では、負のスパイラル状態は分からないのである。
好不調は「契約率」よりも「市場規模」で判断
新築マンションの売れ行き具合を俯瞰するひとつの方法として、市場規模の変化を観測してみてはどうか。首都圏新築マンションの市場規模は、00年代前半まで3.5兆円前後で推移していたが、耐震偽造事件(05年11月)の翌年に3兆円を下回り、リーマンショック(08年11月)の翌年度が1.7兆円のボトム。その後、消費税増税8%(14年4月)前年まで拡大するものの、14年度以降縮小傾向にある(次図)。
「2017首都圏新築マンション市場|市場規模2.2兆円」より
※23区の市場規模については、「23区新築マンション|市場規模は縮小傾向…」参照。
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