感震ブレーカーに組合負担で交換ってありなの?【お便り返し】

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地震が来ると電気を止めるブレーカーに、組合負担で全戸交換しろと管理会社に勧められているが、それってどうなの?って質問です。

もう10日ほど前に来ていたものですが、回答者をできれば1人限定とかでご指名がない質問は放置されやすいです。全員を指名してもよくなくて、できるだけ少ない人数で。管理ネタだと私が単独指名だと3回に1回程度はお返事書いています。

あと3週間で総会の議案書の入稿なのに、あっちこっち議案が真っ白というか、白いワニさん状態なのですが、認知症の母親が週末施設にようやく入所とかで、今パワー切れなのでリハビリを兼ねて軽く。

質問は

差出人: 春うらうら

メッセージ本文:
いつも楽しく拝見しています。
感震ブレーカーのマンション全戸一斉導入について質問させてください。

第一回の大規模修繕工事を終えた200戸規模のマンション住民です。管理会社主導で、感震ブレーカー全戸一斉導入を勧められています。管理会社は、「資産価値向上!」「(修繕積立金から出るので)個人負担無し!」と、メリット(?)しか書かずにとにかく導入させたいようなのですが、個人で調べた限り、戸あたり7万円(全戸で1400万)もかけて導入するメリットが見い出せませんでした。設置も管理会社の系列会社が担当するそうで、修繕積立金の流用に思えてなりません。

2019.12.16のマン点さんの記事も拝見しましたが、外付けタイプやコンセントタイプを全戸斡旋するなどの方法もある気がするのですが…。

スムログメンバーのみなさまのマンションでは、このような感震ブレーカーの全戸導入活動などありましたか?また、導入した・見送った・他の方法を取ったなどあれば、参考にお聞かせ願えれば幸いです。

お薦めし難い理由(箇条書き版)

お値段からすると、しっかりした分電盤の全交換に相当するもので、電気工事が必要になるものに見えます。完全に『その家の中』での工事になりますね。

”春うらうら”さんが理事としての立場なのか、理事会から提案を受けているオーナーさんの立場なのか分かりませんが、私としてはお薦めし難い提案だと考えていて、理事会で提案されたら即決でお断り、オーナーとして総会議案になったら反対をすると思います。

理由は、主に以下の3つです:
  1. 住宅分電盤は、純然たる専有部分であり、そこに組合のお金を使うのには無理があるから
  2. マンションに感震ブレーカーをつける必然性が低いのに、非常に高価な選択肢が選ばれていて組合が関与する理由に乏しいから
  3. 全戸に感震ブレーカーによる強制遮断を強制できないから

組合のお金を専有部に使えるの?

書かれている値段だと、実施は家庭用の分電盤をまるまるとり替える電気工事の全戸実施になります。家の中は専有部ですから、専有部のものにわざわざ組合が支出できるの?という指摘は当然でてきます。

例えば、15年周期くらいで交換するインターフォンとかだと『マンション全戸で同じ会社のものに揃え』ないと、エントランスから呼び出したり、火災放置の信号を送ったりできませんから、ひとつの会社の1種類を指定して強制的に工事することは可能で、これは大抵修繕計画に織り込まれています。他には、専有部内の横引配管を、配管の更新のときに一緒に工事することもあります。

最近の規約だと(標準管理規約だと第21条第2項)

専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の管理を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、管理組合がこれを行うことができる

との規定があります。

どうみても、メーターボックスの電気のメーターよりずっと住戸の側にありますから配電盤は“専有部”(その住戸のもちもの)で、しかもその交換が“共用部分と一体化”されているとは言えませんから、この条文で管理組合が“実施できる”とするのには無理があるかなと思います。

規約はそのマンションのものが優先ですから、大技として、感震ブレーカーの部分までを“共用部分だ”と規約を変えてしまうという大技があり得ますが、どこからが共有部分かという規定は普通規約そのもののなかに書いてありますから、規約の書き換えとなり、全戸の3/4の賛成で規約を書き換えなければ通常の規約では実施は困難です。

さらにいえば、共用部に一旦指定してしまったら、この後の“更新”(永久に使えるものではありません)も計画修繕に組み込んで次の更新も組合で負担しなければなりません。実際には組合の負担は1400万円では済まないわけです。

提案した管理会社や管理組合に対しては、この問題(そもそも専有部なので各個人が自由にできる部分であり、組合の負担部分でない)をどうクリアしているかの確認が必須かと思います。専有部になる横引の排水管を、組合が払っていいかどうかだけで、多数の裁判例があって微妙な問題だったので、標準管理規約での明確化もごく最近の話です。本件“裁判のリスクを押して”まで組合が負担するほどの大事にも思えないので、私のマンションだったら理事会で即決でお断りに決まるかと思います。

積立金を崩せる案件なのか?

1戸7万円というのは、積立金から出すのだとしても相当な大金です。外廊下のマンションだと6年周期程度でさび止めで鉄部塗装を実施しますが、その2回分近い金額です。積立金の取り崩しは用途がかなり厳しく規約上制限されていて、修繕計画に非計上のものを実施するには、標準管理規約第28条準拠の規約であれば、五号

その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

などの例外的な支出の条件を満たす必要があります。“資産価値が上がる”(とは私はあんまり思いません、7万円使って7万円高く売れる気が全くしない)では、超長期に計画的に積み立てている積立金の取り崩しの理由として弱い。

今回取り崩して、さらに共有部扱いとするなら、その更新まで修繕計画に組み込みながら、あと最低でも30年間、大規模修繕工事2回分程度は実施できるだけの資金計画のあてがあるでない限りは、実施が適当とは言い難いかなと思うわけです。

単にお金とかしてるだけじゃないの??との批判に応えられるだけの財政状態に今の組合があるのかどうかです。極論すればお金が無限にあるなら、合意形成だけの問題ですから、皆が賛成するならなにをしたって自由ですが、そこまでお金がうなってるマンションを私はみたことがないので。

そもそも高くない?

各戸の負担がないからというのは詭弁です。実際には全戸が自分の払った積立金を使うわけですから個別に自分で工事するよりも、組合でのとりまとめ施工によってずっと安くなるとかでなければ、組合ー理事会が関与する理由になりません。

単に、地震がきたら強制的に電気を遮断したいというだけであれば、下のリストにあげている通りいろいろな方法があり、書かれているお値段からが、”内蔵型分電盤タイプ”への入れ替えということになります。電気工事の資格のある人の出張工事の手間だけ安くなるはずなのですが、書かれている値段ではあんまり一括実施したい気にはなりません。



木造住宅の密集地区(木密地区)などで、自治体などが政策的理由で補助金を出しているとかでもなけえば、簡易タイプで十分じゃないかなと?

どうしても全戸に通電火災を止めたいなら、これを全戸に2000円で買ってつけてねとアナウンスすればそれで充分にも思えるので。


値段なりのありがたみがあるもの?

もともと、感震ブレーカーは、主として木密地区における”復電時”の通電による火災の防止のためにあるわけです。マンションは、もともとお隣まで燃えるというのは非常に起こりにくいほかに、断熱の悪い戸建てのように電気ストーブといった、復電時に電源ONになっていたら、火事を引きおこすものを地震の時に家で使っている可能性は低い

マンションに”特化”した防災対策の専門家の間では、感震ブレーカーによる電気の強制遮断というのはかなり評判が悪いものです。あんまり推奨している人をみたことがありません。理由は単純で、震度5強以上といった巨大地震が夜中におこった時に強制的に真っ暗にされてしまって、そのあたりに家具が倒れていて、ガラスや瀬戸物の破片も散らばっているといった状況で、すぐ手の届くところに必ず懐中電灯などの照明があるように対応している家がどれだけあるかです。大地震の時に電気を強制遮断するのは防災の観点からはリスクも大きいわけです。

地震が収まってから、家を出るときに、確認して電源を落としてから、必要ならブレーカーも切ればいいだけで、感震ブレーカーが必須なのは、家の人が全員不在の場合だけです。家の中でどこか配線がおかしくなってショートしていれば、漏電ブレーカーは配電盤についてますから電気が落ちる筈ですし、そもそも電気ストーブの電源をいれたまんま家を空けるなんてやばい人がどれほどいるかですね。

そもそも震度7級とかで、家の中で復電火災が起こる程度なら、もうその地区全体で停電してる気がするから、停電してるなか、なんとか様子を見に家に戻れたなら、そこで防災の常識通りブレーカーはオフすればいいだけですし。

電気を落とされては困る人

最近は、電気のメーターのスマートメーター化も進んできていて、何アンペアまでってブレーカーは家のなかの配電盤にはついていないマンションも多いでしょう。

ガスのマイコンメーターみたいに”家の中”じゃなくて、”メーターボックス”の中で強制的に電気を落とせれば、こっちは純然たる共用部分ですから、なんで個人の私物に組合がお金を出すの?って問題は起こんない。では、なぜスマートメーターには感震切断機能がついてないかです。

私のマンションは一括受電を後導入したので、3年に一回完全に専有部までの停電が起こりますが、かならず停電が心配だという名乗り出はでてきます。特殊な電気を使わないと動かない医療機器を使っている人ですね。大抵バッテリーがついていて一定時間の停電には対応するよにできていますが、それでも心配だと言われるので、管理組合のほうで、非常用発電機を何台がもっているので、いざという時に備えて待機させるなど対応をしています。わずか数百戸でも、そんな”停電されては困る”人が2戸くらいでてきったりするわけで、うちは、感震ブレーカーなんてつけられては困る!と言われたら、それはその方の意思が優先に思うわけですね。

全戸やらないなら、とりまとめ施工で希望者が自腹で、お安くできますよとすればいいですし、木密地区であるなどの理由で、補助金が出るとかならそれもありです。

書いてあるお値段的にはどうみでも補助金なし、自分で自腹で工事するのと値段も変りません。
となると、これを無理押しして、いったい誰得?とか思ってしまうわけです。高めの見積もりで利益をだして、管理会社の”シノギ”にしたいのかな??
・・・実は案外よく聞く話なのですが、感心しないなと思ってます。

!! 重要 !!
 本ブログの内容は、著者の個人的見解であり、著者の所属するマンション管理組合、勤務先、RJC48も含めその他所属する一切の団体の意見、方針を示すものではありません。

ABOUTこの記事をかいた人

マンションのモデルルームがあるとたとえ外国でもふらふら入ってしまったり、管理組合の理事会には思わず立候補する人って多いですよね。多いはず!! それなのにあんまり管理組合の苦労とかのブログって見ないので立ち上げてみました。世の中に多い管理士系ブログとは一味違う、理事会側から見たマンションの運営を中心テーマに書いていこうと思ってます。

10 件のコメント

  • 春うらうら より:

    お忙しい中返信いただきありがとうございました!

    >これを無理押しして、いったい誰得?

    まさしく質問に至った経緯がこれで、しかし私が穿った見方をしているからかもしれないと、ご意見伺った次第です。私は「理事会から提案を受けているオーナー」です。総会議案に上がってきたら反対を投じます。人件費も資材費も高騰している中で、積立金を無駄遣いしてほしくないものです。この度はありがとうございました。

    • はるぶー より:

      共用部分でもないのに支出することがあるのだと、規約事項ですから、そのなんらかの書き換えとペアで
      なければなりませんし、
      積立金から”計画修繕”のリストにないのに、取り崩しを行うのだと、規約上にかなり厳しい制限があるのに
      対して、その条件を満たしていなければ取り崩しはできません。

      無論1オーナーとして反対されるのはよろしいと思うのですが、規約の問題とかなら
      ”そもそもこれは多数決の問題ではないのでは?” という質問をもう議案書が届いているのであれば
      きちんと理事会に出して、答えを貰って議事録に記載いただくべきだと愚考する次第です。

      はるぶー

  • 春うらうら より:

    再度のご指摘ありがとうございます。管理規約を再読し、修繕積立金の使途項目に今回の専有部改修が全く当てはまらないことを確認しました。そもそもの問題を履き違えるところでした…。今はまだ事前アンケートの段階です。規約変更決議かけるということですか?と聞いてみます。

    • はるぶー より:

      そもそも、規約を書き換えるとかしないで、
      個人の私物を勝手に組合が取り替えるなんて可能なの?
      という点と、
      さらに、それを計画非計上の、積立金会計の取り崩しで
      支弁して良い根拠はなんなのかの二つの問題がありますね。

      多数決以前に、これはそもそも管理組合がやって良いことなのか?という問い方が妥当に思いますです。

  • 春うらうら より:

    その後アンケート集計の結果、導入見送り(総会議案にかけない)となりましたことをご報告します。ご回答とコメントいただいた内容を何度も読み返し、参考にさせていただきました。ありがとうございました。これからも記事楽しみにしています!

    • はるぶー より:

      きちんと合意形成がなされた結果”見送り”になったことはよかったと思います。
      本件どう考えても規約変更ですから3/4超えの賛成です。
      マンションのほぼ全戸が賛成という場合のほかは避けるのが適当に思います

  • カエル・ケロー より:

    来月の通常総会で「修繕積立金で、内蔵型分電盤タイプを全戸導入する」という議案があり、
    疑問に感じている区分所有者です。
    ネットで参考になる情報が無いかと検索し、当サイトを見つけました。
    非常に役に立つ情報で、参考になりました。ありがとうございます。

    ただ、私のマンションの管理規約には修繕積立金の用途の一つとして、
    「専有部分である設備のうち、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる修繕。」
    との項があり、ちょっと手強そうです(国交省のマンション標準管理規約には無い項目ですね)。

    「簡易型や後付け型なら当項に該当する可能性はあるが、分電盤本体の通常の経年劣化は当項に該当しないだろう」及び
    「分電盤が次の交換時期を迎えたら、また修繕積立金から支出するつもりか?」
    との2点を主張してみるつもりです。

    また総会の結果が出たら続報します。

    • はるぶー より:

      これに反対して差し違えるというものでもないので、
      言うことは言って、ちゃんと記録に残してくれとしたら
      後は多数決で決めるしかないものかなとは思います。
      総会まで行ってるなら可決の可能性が極めて高いので

      • カエル・ケロー より:

        本日総会があり、反対票が1/4を上回ったため、めでたく否決されました。
        規約違反というのは認められなかったのですが、
        ・修繕費の収支状況が厳しい事。
        ・一戸でも反対があるなら、導入する意味が無いこと。
        ・簡易型の感震ブレーカーでも機能的に十分であること。
        等の意見が出て、総会参加者の内7名(全24戸)が反対票を投じました。

        当サイトは、いろいろ参考になりました。
        どうもありがとうございました。
        今後とも、時々覗かせていただきます。

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