【回答】再開発の遅れがマンション価格に与える影響とは

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再開発計画が中断・延期したときのマンション価格への影響に関心のあるハケさんからの質問。

読者からの質問


資材費と人件費の高騰の影響で、再開発計画が中断・延期となる事例が出ています。

私の住んでいるエリアでも駅前の商業施設の着工が延期となり、他にも予定通り進むか怪しそうな計画があります。

再開発の情報が出るとその期待感でマンション価格が上昇することは多々あると思いますが、その計画が中断した時はどの程度影響があるものなのでしょうか

個人的には「中止じゃないならいつか終わるし」くらいの感覚なのですが、見通しが甘いでしょうか。

「再開発=値上がり」は幻想か

駅前再開発のニュースが出ると、「資産価値が上がる」という期待から周辺のマンション価格が上昇するのは珍しくない。大規模な商業施設やタワーマンション、公共施設の整備が見込まれるエリアでは、将来的な利便性や地域価値の向上が織り込まれる形で、すでに存在する中古マンションの価格までもが引き上げられるケースがある。

しかし、問題はその「期待」が裏切られたときだ。

資材価格や人件費の高騰、行政手続きの遅延などにより、再開発が中断または延期される事例が全国各地で相次いでいる。「完成が数年遅れた」といった報道に対して、「中止じゃないなら、いつか完成するだろう」と楽観視する声も少なくない。

板橋駅西口再開発の「遅れ」が市場に与えたインパクト

その実態を探るべく、「板橋駅西口地区第一種市街地再開発事業」に着目した。商業施設、公益施設、住宅(37階建て、390戸)から成る大規模再開発である。

板橋駅西口地区第一種市街地再開発事業
板橋駅西口地区第一種市街地再開発事業|東京都都市整備局

完成は当初2024年度とされていたが、用地取得や調整の遅れにより着工がずれ込み、2029年度の完成となっている。

この“予定通りに進まなかった”再開発の影響を、国土交通省が公開する「不動産情報ライブラリ」の取引データを用いて分析した。対象は最寄駅を「板橋駅」とする過去10年間の中古マンションの成約単価である(次図)。

最寄駅「板橋」とする中古マンションの成約単価の推移
2013年に板橋駅西口地区市街地再開発準備組合が発足し、成約単価は上昇傾向を示していたが、2017年頃には伸びが止まる。
2020年5月に板橋区が施行者から事業スケジュールの遅延にかかる状況報告を受け、引き続き伸び悩むが、2023年度あたりから上昇傾向を見せ始めている。

再開発の「中止」ではなく、あくまで「遅延」であるにもかかわらず、市場はすでに価格の伸びを抑制する方向に反応していたように見える。これは、マンション価格が単なる将来完成への期待だけでなく、「スケジュールの信頼性」までも織り込んで形成されていることを示唆している。

まとめ:再開発頼みの物件選びにはリスクもある

再開発は、たしかにエリア価値を底上げする有力な材料である。だが、「進行中」の段階では、すべてが不確実であり、価格に上乗せされているのはあくまで“期待”に過ぎない。

そして、その期待が一時的にしろ裏切られれば、市場は反応する。板橋駅西口の事例が示すように、「いつかは完成する」という楽観論は、少なくとも中古マンションの価格形成においては根拠になりにくい。

物件を選ぶ際には、再開発の「規模」や「計画内容」だけでなく、「進捗の確実性」や「行政・事業者の実行力」にも目を向けるべきである。期待先行での高値掴みを避けるには、その一歩引いた視点こそが、最も重要な“資産防衛”である。

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一級建築士/マンションアナリスト/長寿ブロガー(20年超)

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