武蔵小杉のタワマンが、修繕積立金20億円を社債で運用し話題となった。住民に投資のプロがいたことが成功の鍵だが、一般的なマンション管理組合では、修繕積立金はどのように運用されているのだろうか。
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武蔵小杉のタワマン、修繕積立金20億円を社債で運用
武蔵小杉のタワマンの管理組合が、修繕積立金30億円のうち20億円を国内企業の社債で運用していることを報じる朝日新聞の記事。修繕積立金、運用中
タワマン住民「インフレ備え」 リスク議論、20億円元手に収益
(前略)運用方針の転換は2016年。月々の修繕積立金の増額がきっかけだつた。住人から有志を募ると、外資系投資銀行員や大手証券会社員、ヘッジファンド関係者など、金融のプロが続々と集まり「資産運用審議会」を立ち上げた。(中略)議論した結果、企業が事業資金などを調達するために発行する「社債」を中心に運用する案が固まった。(中略)為替変動リスクを避け、社債は国内企業に限定した。
(中略)
現在、修繕積立金(年間約2億円)などを原資に運用する資産は約30億円。このうち約20億円分は、通信、金融、保険など国内の30社超の社債で運用し利回りは年0.4~2.8%程度。累計の運用益は2.4億円以上に上る。その他約9億円は、住宅支援機構の「マンションすまい・る債」で運用する。(以下略)
(朝日新聞24年7月22日 25面)
新聞で取り上げられるということは、それだけ珍しいということの証。
住民から預かった大事な修繕積立金を投資で運用することは、元本割れのリスクを伴うことから、通常はあり得ない選択だ。武蔵小杉のタワマンは、住民の中にいた投資のプロが英知を集めたからできた稀有な事例。
では、普通のマンションの管理組合は、修繕積立金をどのように運用しているのか。
他人の懐具合はなかなか分からないものだが、じつは国交省が6月21日に公表した「令和5年度マンション総合調査結果」のなかに、「修繕積立金の運用先」(「管理組合向け調査の結果」P229~230)のデータが掲載されている(次図)。同調査は全国の管理組合や区分所有者を対象に5年ごとに実施されている。
調査年度に係らず、「銀行の普通預金」運用 約8割
修繕積立金の運用先について、過去の調査結果もひも解き、2008年度調査以降の推移を可視化してみた(次図)。- 最も多い運用先は「銀行の普通預金」で、調査年度に係らず、約8割を占めている。
- 次いで多いのは「銀行の定期預金」で、調査年度が新しいほど割合が減少している。元本割れリスクがないという意味では、普通預金・定期預金とも人気があるのだが、低金利環境下においては一定期間引き出せない定期預金はうま味がないと判断されたのだろうか。
- 3番目に多いのは「銀行の決済性預金」で2~3割を占めている。預金保険制度の対象となり全額保護されるので、一定の人気があるのだろう。
- 4番目が「住宅金融支援機構のマンションすまい・る債」で、調査年度に係らず約2割。
- 「積み立て型マンション保険」は、調査年度が新しいほど割合が減少。23年度は1.4%。
「銀行の普通預金」運用、完成年次が新しいほど減少
修繕積立金の運用先について、完成年次別の変化を可視化したのが次図。- 「銀行の普通預金」は、完成年次が新しいほど減少する傾向が見られるが、それでも「20年以降」で約7割をキープ。
- 「銀行の定期預金」は、完成年次15年以降で急激に減少し、「20年以降」では1割を切っている。異次元の金融緩和の影響なのだろう。
- 「銀行の決済性預金」は「~09年」で34%と最も高くなったのは、08年9月に発生したリーマンションにより、銀行経営破たんによるペイオフが意識された結果だろうか。
「マンションすまい・る債」運用、総戸数規模が大きくなるほど増加
修繕積立金の運用先について、総戸数規模別の変化を可視化したのが次図。- 「銀行の普通預金」の割合は、総戸数規模が300戸を超えると減少。500戸超で56%。
- 「住宅金融支援機構のマンションすまい・る債」の割合は、総戸数規模が大きくなるほど増加する傾向が見られる。500戸超で6割に迫る。
- 「銀行の定期預金」は、総戸数規模に係らず、3~4割。
令和5年度マンション総合調査結果を元に可視化分析した記事。
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