第101回「直貼りと二重床。結局どちらを推すのですか」に答えて

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第96回「残念な流行=直貼りマンションに思う」をご高覧いただいた方から、「タイトル」のようなご質問がありました。個別のお答えは保留しておりましたが、今日この場をお借りして公開します。お答えになるかどうか自信はないのですが。

 

●直貼り床はコストダウンの象徴

二重床より直貼りの方が、工程数が少ないのでコストを下げることができますが、その採用が増えているのは残念と筆者は述べました。

 

つまり、筆者個人は二重床の方が上等と思っているわけです。しかし、二重床は施工の仕方が難しく、精度の低い施工をしたら遮音性が低いマンションになってしまう危険と背中合わせとも述べました。

 

後で騒音クレームにつながるので、それだったら最初から施工のやさしい、騒音も出にくい直貼りの方がいいのではないか。こんな考え方が生まれても不思議ではないでしょう。

 

しかし、1億円もする高級マンションには直貼りの採用例を聞いたことがありません。施工精度に気を付けつつ二重床のマンションを誕生させているのです。

 

 

時計の話をします。手巻き時計とクオーツ時計を比べたら、どちらが正確に時を刻むのでしょうか?ご存知のように、クオーツ時計の方が狂いは少ないのです。

 

手巻き時計の場合、正確に時を刻むようにするには精密な技術と優れた部品を用いることが必要なのだと思います。

 

ところで、100万円を超えるような高級時計の多くが手巻き時計であることをご存知の人も多いと思いますが、正確な時を刻むクオーツ時計や電波時計より手巻き時計が高いのは、何故なのでしょうか?

 

時計の世界に精通しているわけでもない筆者にうまく解説することはできませんが、知人のコレクターに言わせると、時計は芸術作品と同じだというのです。有名な職人が一品生産した「芸術品」だからだと。

 

正確に時を刻むだけでは差が出ないので、宝石をあしらったり、格調高いデザインだったりと外形的な部分で個性を競うのだと言います。手間暇かけて作る時計こそ価値あるものとなるのであり、電波やクオーツ時計にはない世界だというのです。

 

マンションは生活の基盤として保有するものであり、時計とは違いますが、一面で共通の真理もあると筆者は思います。

 

生活に便利で、騒音もなく快適に住んで行けるなら直貼りも悪くないはずです。しかし、正確に時を刻んでくれれば時計はどんなものでもいいという買い方はしないのと同じで、ブランド時計や芸術作品的な高級時計を持つことで「優越感」を味わう、言い方を換えれば「所有欲を満足させてくれる」ように、生活の拠点で雨露が凌げればいいと考える人はいません。

 

つまり、どうせ買うなら価値あるもの、芸術的な価値ではなく資産価値をと考えたり、人が羨むような高級マンションに住みたいと思う人も少なくないのです。

 

 

●マンションは利便と機能だけが価値ではない

こんな広告のコピーがあります。どの物件で使われたものか記憶から消えてしまいましたが、売主は三菱地所レジデンスだったはずです。

「洋服のように簡単に替えのきかないのが住まいであろう。貴方の人生を纏う住まいだからこそ、選び抜かれた生地で仕立てにこだわり、着心地が良い、そんな住まいでありたい」

このコピーに触れた瞬間、筆者が連想したのは見えない所にこだわる職人のモノづくり姿勢でした。背広で言えば、何十工程も経て、体にフィットし、何度洗っても型崩れしない、そんなオーダースーツを想像します。背広だけではなく、注文から半年も待たされるような人気の手作りカバンや靴のイメージです。

自己満足だけのことかもしれませんが、人間の欲望や価値観は分野も強度も個人差があるものですが、お金を余分に払っても仕立ての良い洋服を着たい、ブランドバッグを持ち歩きたい、たまには三ッ星レストランで外食を楽しみたいというのと同じで高い品質の生活を楽しみ たい。このような価値観を持つ人は少数派ではありません。

マンションも質感や見栄えを無視できないのです。利便と機能だけでは満足できない人がたくさんあります。ということは、いざ売却のときに重要な要素になることを意味するので、気にしないわけに行かないのです。

 

しかし、洋服や靴と違って資産性の要素・観点が加わるマンションの場合は、見てくれ以上に重要な点があります。それは設備・仕様、構造の分野です。さほど変わらないように見えてしまう新築マンションのモデルルームも、目の肥えた人が見れば違いが分かるものです。

 

ただ、構造的な部分の価値は、そもそも隠してあるので分かりづらいのも現実です。パンフレットやHPなどでは一応の説明が付いていますが、それがどれほどのものかが分からない人も多いのです。

 

例えば、当マンションは遮音性を高めるため、次のような素材によって二重三重に排水管を囲んでいますなどと図解しています。また、二重床・二重天井とし、遮音効果を高めていますなどの図解もよく見かけます。

 

しかし、それにも等級はあるのです。どの程度の品質なのか、長く住んでも飽きが来ない価値か、見た目だけの高級マンションではなく、高い品質の本物の高級マンションかどうか、こうした問いかけも重要です。

 

●マンション選びは「あちら立てればこちらが立たず」

施工精度を買い手が確かめる方法を筆者は知りません。

 

携帯電話もパソコンも完成した品物を外からじっと見ただけで精度がどうかなんて全く分かりません。製造した富士通やシャープやソニー、パナソニックといったメーカーを信じて買っています。

 

マンションも同じです。竣工すると内覧会が必ず挙行されますが、外から目視しただけでは分かりません。専門家が内覧会に同行しても分かる範囲は知れています。遮音性に関しても、実験が行われるわけではないのです。

 

完璧な品質管理のもとに完成させた製品でも、故障や不具合は起きます。車のような人命を左右するかもしれない品でもメーカーをただただ信じて購入しますが、ときどき事故が起きたり、起きそうになってリコールしたりと、世界中から信頼の厚い日本製ですら問題は起こります。

 

マンションも同じです。まして、機械ではできない手作り部分が多い建築物のこと、職人さんの腕によっては不具合も故障も常にあり得ると思っていなければなりません。

 

全工程がオートメーションで作られた製品はともかく、人の手が入る製品は不具合が起きやすいものです。マンション建設でも工事区分ごとに検査をしながら進めて行っても不具合が起きるのです。人手不足状態のときは、スケジュールに追われて仕事が雑になるということもあるでしょう

 

あらゆる製品が製造者責任を負わされています。そして、保証期間が定められ、期間中は無償で修理や交換を行うことが商習慣として定着しています。万一のためですが、それが実際に起きます。

 

あらゆる製品の中で住宅・マンションが最も不具合が起き、クレームの割合も多いと言われ「クレーム産業」などと有難くない呼ばれ方をしたこともありました。

 

マンションの場合では、騒音問題が頻繁に発生してメーカー(マンションデベロッパーとゼネコン)を苦しめたものです。しかし、経験を重ね、遮音性の高い工法と遮音性の高い素材を使うことで進歩して来たのです。

 

筆者の経験ですが、以前住んでいたマンションで、真上のお宅に元気のよろしいお子さんが二人いて、室内をかけっこするという困った問題に遭遇しました。二重床でしたが激しい音に妻は悩まされていました。これが直床だったらどうだったか、永遠に謎です。

 

ついでに言えば、半年くらいして音は鳴りやんだのです。お子さんたちが成長して聞き分けが良くなり、静かな共同生活者に変化したというわけです。

 

運が悪ければ騒音に悩まされることがあるのです。これは高級マンションでも同様です。かつて、原宿の高級マンションにお住いの方から相談を受けたとき(別の件で)、余談として聞いた話ですが、音は上からではなく、斜め下の住人が音源でした。音源を特定するためにお金を使って専門機関に調べてもらったそうです。

 

音源がどこか分からないときは厄介です。

 

9月20日の記事「第93回 マンション選びは“あちら立てればこちらが立たず」で述べましたが、マンション選びは、価格(予算)に縛りがある以上、どこかを妥協しなければ購入はできないものです。

 

たまたま選んだマンションが直床なのか二重床なのか、仮に直床なので遮音性能は心配ないと言えるとしても、コストダウンのために他の部分で手抜き施工が行われていないとも限りません。

 

二重床の場合では、施工精度に信頼が置けるゼネコンだとしても、生活の仕方の問題で騒音被害にあわないとも限りません。どちらにしても、施工の仕方と売主を加えた品質管理法を信頼するほかありません。

 

筆者は、二重床でないマンションは避けた方がいいとも言っていませんし、二重床が絶対とも思いません。だから、「どっちなの?」という質問が来たのでしょう。しかし、よく考えていただければお分かりになると思うのです。

 

「直床は気にいらないが、間取りがいいので決めた」とか「二重床なので運が悪ければ音に悩まされることがあるかもしれないが、共同住宅なのだから仕方ない。眺望がいいし、日当たりもいいのでここに決めます」などということでいいのではないでしょうか?

 

どうしても直床はいやだという人は、その一点だけで候補から消す。それでいいのだと思います。

 

・・・・今日はここまでです。ご高覧ありがとうございました。

 

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