第222回「新築マンションは待っても出て来ない?」

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このブログは10日おき(5、15、25)の更新です。

このブログでは、居住性や好みの問題、個人的な事情を度外視し、原則として資産性の観点から自論・「マンションの資産価値論を展開しております。

 

新築マンションは秋にかかる頃に第1次(第1期)分譲を始める物件が目白押しに並ぶもものですが、情報誌などを見ていても、さほど多くはないように感じます。

新築マンションは、今後どうなっていくのでしょうか?

 

今日は新築マンション市場の今後を占ってみようと思います。

●新築マンションの供給減少と中古の将来性について

首都圏の新築マンション年間供給戸数の推移をみると、最近数年は10年前と比べると半減しています。(23区は40%減)

 

年間の新築マンション需要は、首都圏全体で50,000戸くらいはあると見られますが、発売戸数は2009年以降の10年間に限ると平均43,000戸程度しかありません。(36,376戸・44,535戸・44,499戸・45,602戸・56,478戸・44,913戸・40,449戸・35,772戸・35,898戸・37,132戸:平均42,165戸)

遡って、2000年以降2007年までの8年間を見ると、平均82,706戸でした。

(95,635戸・89,256戸・88,516戸・83,183戸・85,429戸・84,148戸・74,463戸・61,021戸)

これは、次の10年後に築浅マンションの流通戸数が非常に少ない状況を予期させるデータです。

 

どうしてこんなに減ってしまったのでしょうか?理由は二つと考えられます。

ひとつは、中小デベロッパーの減少です。つまり、作り手がいなくなったのです。2008年秋に起きた「リーマンショック」は世界金融危機と世界同時不況を招きました。

日本も例外ではなく、百年に一度の不景気が来るとの危機感が広がり、とりわけ金融機関はバブル崩壊の過程で巨額の不良債権を抱えてしまった経験から、守りの姿勢を強めました。その影響を最も強く受けたのが、負債比率の高い中小マンション業者とゼネコンでした。

マンション供給戸数で一度は大手「大京」を抜いて全国一位になった穴吹工務店を筆頭に個性派のマンション業者が、株式上場企業も含めて銀行から資金を止められ、多数倒産してしまいました。

 

大手は大規模マンションを、中小は大手が手を出さないエリアと中規模以下のマンションをと住み分けしていた業界でしたが、その構図が崩れ、中小業者の分がごっそりと減ったのです。

 

理由の二番目は、用地の取得ができなくっていることです。

良い土地が中々ないと嘆きながらも用地を確保し、マンション供給を続けていた業者に強い順風が吹いた時期がありました。

 

バブル崩壊後の地価下落過程で、法人・団体は一斉に土地を放出したのです。それまでは一度取得したら手放さないで抱え込むことが「含み経営」のメリットであり根幹をなすものでしたが、右肩上がりの土地神話が崩壊し、並行して会計基準が国際化されたことなどによって、方針転換する企業が続出しました。

 

社宅、グラウンド、工場、倉庫、資材置き場、廃校や移転で空いた学校など、それまで憧れでしかなかった土地が次々とマンション業者の手に渡りました。その結果、バブル期には殆んど途絶えていた()新築マンションが息を吹き返したように急速に開発され、市場に送り出されたのです。

1991年の首都圏全体の新規発売戸数は、2017年の戸数37,132戸をも下回る26,248戸と低水準だった

 

2000年からリーマンショック前年の2007年までの年間供給戸数は、80,000戸を超えることとなりました。首都圏の年間需要は50,000戸くらいと言われていましたが、バブル期の供給不足がウエイティング需要を蓄積させていたことによって爆発的な売れ行きをもたらしたのです。

 

ところが、その後は地価の高騰もあってマンション用地は極端に減少しました。企業のリストラ(土地の置き換え・単純放出)が一巡してしまったのです。特に大規模敷地は湾岸エリアに限られてしまったかのようです。

 

供給が減っても、需要も減ればバランスするわけですが、最近数年の30,000戸台の供給戸数に対して需要はどのくらいあるのでしょうか?

 

この答えとなる適切なデータは見当たりません。しかし、市場実感として言えるのは、50,000以上はあるということです。

(あぶれた10,000以上の世帯は、待機組と中古購入組とに分かれて行ったようです)

 

超長期で見れば、人口の減少が住宅需要の減少をもたらすことは間違いないですが、首都圏、とりわけ東京都区部は減少スピードが遅いと考えられています。東京都区部の場合、最近も全国の傾向と逆の人口増加傾向にあるからです。

 

こうした背景を見ながら考察して行くと、向こう10年程度で需要が2割も3割も減ってしまうことはないでしょう。しばらくは50,000戸程度の需要はあると見てよいのです。まあ、減っても40,000戸くらいは維持できるはずです。

 

そんなマクロ市場とは別に、都区部・都心などの特定エリアになると需要は底堅く、むしろ増えると見てもよいかもしれません。

需要が供給を上回る状況になれば、どんな中古物件でも底上げされる期待が持てることになります。

 

あとは、物件固有の条件格差ということになるわけですが、この点については長くなりますので、別の機会に書くことにします。

 

●値下がりが期待できない新築マンション

少し遡って市況を振り返ってみます。

2016年1月の新築マンションの契約率は58.6%と70%のボーダーライン(好不調の分かれ目とされます)を大きく割り込みました。50%台は2008年7月以来7年ぶりのことでした。

 

2月以降も一進一退の契約率でしたが、70%を割り込む月が増え、市況は低落傾向を見せました。それ以来3年を経過しましたが、2019年9月現在、売れ行きは低迷したままです。

 

売れ行きの低迷は発売の先送りも増やしています。しかし、着工してしまった建物、契約が僅かでも進んでいる物件は販売停止というわけには行きません。少しずつでも発売し、販促を図ろうとするはずですが、期間あたりの売り出し戸数の減少は続いています。

 

発売戸数が減れば契約率はさほど低下しない可能性もありますが、いずれにせよ、マンション市場は低迷期が続いています。

 

ちなみに、2016年の年間・新規供給戸数は前年比約11.7%減の35,772戸、初月契約率の平均は68.8%でした。価格(坪単価)は前年の257万円から1.8%アップの262万円となりました。

2017年も戸数減少、価格上昇(8.4%アップ)、販売スピードの悪化となりました。2018年も価格は高いまま、売れ行きは低迷という状況が続きました。

 

売れ行きの悪化は、価格の低下につながるのでしょうか?

直ちに下落することはないのです。現実にも、表面的には全く下落傾向を見せていないのです。

 

新築マンションは生鮮食品とは異なります。通常でも値引き販売はありますが、その数字を公表することはしません。公表するのは、完成済みマンションの売れ残り住戸、しかも、その中のごく一部、モデルルームとして何か月か使用した住戸だけです。

 

売れ行きが悪化したとき、その原因が価格の問題だけではない場合、価格は硬直的です。完成物件を中心に水面下では値引き販売が増えますが、これは、統計に表れにくい価格低下現象です。

 

統計上の価格も下がる可能性があるとしたら、まだ着工していないマンション、着工はしているが未発売の物件からです。しかし、それも急に下がることはありません。

 

何故なら、土地代という原価も建築費という原価も確定済みだからです。販売経費を差し引いた利幅は通常10%程度しかないのがマンション事業ゆえに、下げ幅に大きな余裕はないからです。

 

赤字販売を余儀なくされる状況になったときは、開発を凍結、もしくは着工を中止して時期を待つのが業界各社、なかんずく大手企業の策です。

 

建築費が決まっていない、つまり原価が決まっていないケースでも、現状では発注金額(建築費)が下がる可能性は低いので、新築マンションの価格が急落することはありません。

 

工事費が下がるのは、東日本大震災、熊本地震など全国各地の災害復興工事がなくなるか、東京オリンピック関連工事がなくなること、東京都心の再開発工事が止まることなどによって、建設業界の繁忙が落ち着くこと、建築資材が値下がりすることなどが条件になるのです。

 

ときどき、建築資材(鋼材など)がいくらか値下がりしているという報道に触れることもありますが、建築費の45%は労務費(人件費)と言われるだけに、建築費が大きく下がる材料とはなりにくいのです。

 

その労務費の上昇が一服したという声もありますが、根本問題の人手不足は解消されていないため、建築費が値下がりに転じることにはならないようです。

 

結局、最後はマンション分譲会社(デベロッパー)が赤字覚悟で価格を下げるしかないのです。しかし、売り出し前から赤字事業を進めるのは企業としてはできないものです。土地は腐るものでもないので、最後の手段は凍結です。10年くらい寝かせておけば何とかなるだろうというわけです。

 

地価が急に下落するとも思えないので、安い土地を新たに取得してコストダウン策を徹底するなどの策も非現実的ですし、開発期間を計算すれば短時間に安いマンションが出て来ることはあり得ません。

 

頼みの綱は、ゼネコンの仕事が減ってマンション工事の受注合戦が起こり、建築費が下がることですが、その期待も持てそうにありません。東京オリンピック関連工事は来年半ばにはなくなるでしょうが、代わりの工事は目白押しにあるからです。

 

品川駅のリニア新幹線関連工事や山手線「高輪ゲートウエイ駅」の開設と関連工事、浜松町駅周辺再開発、東京駅北口・常盤橋再開発、虎ノ門~麻布台開発、「虎ノ門ヒルズ駅」の開設、首都高日本橋地下化工事、渋谷駅周辺再開発工事など、都心の再開発が目白押しに予定、もしくは進行中です。

 

五輪後も訪日客の増加が見込まれるので、ホテル建設需要も続くに違いありません。

加えて、過去6年、財政バランスのために6兆円に抑制してきた規律を破り、2019年度から3年間にわたり、公共工事費を毎年1兆円増やして7兆円に増やすと政府は発表しました。

 

これらを俯瞰して行くと、建築費の大幅な低下はないと見なければなりません。

 

以上から、安くなった新築物件が出て来るとしても、それが販売開始されるまで早くても3年以上も先のことになると見るほかないのです。

 

●歴史は語る;「今は買い時か?」

「今、買い時ですか?」とよく問われます。そのときは「間違いなく買い時ではない」と答えざるを得ません。何故なら、この5年間の価格上昇率は尋常ではなかったからにほかなりません。しかし、少し待てば価格は下がるでしょうか?下がるとして下落率はどのくらいになるでしょうか?

 

ここで過去を振り返ってみます。

 

首都圏平均ですが、新築マンションはこの4年間に25%も上昇しました。とりわけ23区の上昇率は大きく、リーマンショック後の底値圏だった2012年の坪単価は264万円でしたが、3年後の2015年には同326万円と、24%も上昇したのです。2018年は、

70㎡(21.1坪)換算では5590万円から6880万円と1290万円の上昇でした。

 

数字を追ってみます。

 

バブル経済崩壊後の下落が止まった2002年から2004年(3年間)は価格の底で、かつ安定期にありましたが、この頃の23区の新築マンションの平均坪単価は約220万円でした。

 

翌年2005年から2008年(4年間)にかけては、毎年上昇して2008年には280万円を超えたのです。2002年からの上昇率は27%強です。

 

2009年には263万円と急落し、2009~2012年の4年間は平均で約265万円となりました。2008年比で5%下落となったのです。

 

そして2013年から2015年にかけては、先に述べたとおりで、2015年は2012年比で24%上昇の326万円となったのでした。そして、2016年はさらに上がって332万円という統計値が公表されました。(以上の元データは不動産経済研究所調べ)

 

もう一度、時系列で見ます。

【2002~2004年 底値安定期】:@220万円

➡【2005年~2008年 上昇期】:@280万円(+27%)

➡【2009年~2012年 下落期】:@265万円(▲5%)

➡【2013年~2018年 上昇期】:@365万円(+38%)

 

2004年をスタートして見ると、3年か4年のタームで上昇、下落、上昇という推移ですが、上昇幅は27%と38%、下落幅は僅か5%であることが分かります。

 

つまり、一旦上がると調整局面が来ても、下落幅は元に戻るほどのものではないのです。

言い換えましょう。バブル期のような極端な上昇が起こると、崩壊後の下落局面では元に戻るほどの下落を見せる可能性がありますが、上がり方が4~5年で30%前後なら、下がっても5%程度なのです。基調としては右肩上がりが続くというわけです。

 

さて、現状の高値圏で購入したら、この先の調整局面では、どこまで下がるでしょうか?歴史が教えてくれていることは、値下がりしても、この4~5年間の上昇幅(30%前後)なら、下がっても5%か10%に留まる可能性が高いのです。

 

●供給戸数の増える見込みがないとしたら中古しか道はない

新築マンションは大幅減、売り出しがあっても「超高額」か、「立地条件が希望と合わない」ので、検討できる物件は僅かしかない。あっても、気に入らないものばかり。

 

新築マンションの予告広告に気付いて問い合わせをしても、価格はなかなか分からない。散々待たされた挙句、予算に遠いことが分かったり、届く住戸があるらしいと知っても条件が悪い位置であったり失望させられてしまうのです。

 

しからば別の物件を探そうとしても、気に入る物件は中々出てきません。やむを得ず、希望エリア、希望条件を変えて探すものの気に入る物件には遭遇しない。そう感じて落胆している人に度々遭遇します。

 

筆者は、最近3~4年くらいのことですが、中古マンションを探すことをお勧めしています。年間の新築マンションが3万戸程度しか供給されないことを思うと、あぶれてしまう人(家族)が少なくとも1万、ひょっとすると2万家族も出てしまいます。

 

早い者勝ちでは買えない仕組みが新築マンションなので、策は二つしかありません。抽選に弱い人は、売れ残りマンションの「先着順受付中」マンションから選択するか、中古マンションを虎視眈々と狙って素早く動くほかありません。

 

前者は人気薄のマンションを選ぶことを意味します。おそらく意に沿わない物件である場合が多いでしょう。としたら、選択すべき策は虎視眈々と優良中古を狙うことです。

しかし、1戸しかない中古を鷹の目で追い、鷹のようなスピードで追いかけることが必須です。

 

課題はスピードだけではありません。優良な中古マンションは、同日に4人も5人も見学者が殺到します。その見学者との競争にも勝たなければなりません。下手に指値をしてしまうと、売主から断られてしまいます。ケースバイケースなので、ここでは書きませんが、指値するのか、満額回答するか、いずれにしても「素早い決断」が必須となります。

 

そのためには、見学当日のチェック項目に関して予習(調査)しておくようなことが必要になるかもしれません。言い換えると、事前準備によって素早く決断するのがコツということになります。

 

最後に、みさんの決断の手助けになるよう、引き続き最善のサポートをしていけるよう、引き続き努力して行くつもりです。

 

・・・・・今日はここまでです。ご購読ありがとうございました。ご質問・ご相談は「三井健太のマンション相談室までお気軽にどうぞ。

 

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ちなみに、9月30日の第694回は「マンション価格はまだ上がるのか?」です。

 

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