「都心3区は、もう無理だ」
千代田・中央・港。もはや価格表を見るまでもない。最初から検討から外す。その判断は、今の相場下では極めて合理的だ。
だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。「では、都心3区を諦めた先には、どんな景色が広がっているのか?」
「外周区なら現実的だ」という言説は多い。しかし、データが示す現実はもっとシビアだ。都心を外した瞬間にバラ色の選択肢が広がるわけではない。そこにあるのは、エリアごとに買い手が残酷に選別される「分断」の縮図である。
本記事では、東日本不動産流通機構(REINS)の成約データを利用し、23区マンション市場に生じた分断の正体を可視化する。一次取得者がまだ“息ができる場所”は、どこに残されているのか。感情論を排し、事実のみを並べてみたい。
都心3区が「別の市場」になった構造
次図を見れば、絶望の正体がはっきりする。東京23区を5エリアに分けた中古マンションの成約単価(㎡単価)の推移だ。結論から言おう。
都心3区だけが、重力を振り切って「別の市場」へと引き離されてしまった。グラフが描くのは、緩やかな上昇ではなく、明確な市場の「分断」である。
2013年、都心3区の㎡単価は70万円台後半だった。城南・城西との差はわずか。少し背伸びをすれば、誰にでも手が届く「同じ地平」にいたのだ。
潮目が変わったのは2018年。他のエリアが80~90万円台で足踏みをするなか、都心3区だけが100万円の大台を突破。2020年以降の加速は、もはや異常だ。直近では㎡単価200万円を軽々と超えている。70㎡換算で1億4,000万円。これが「平均」という狂気だ。
重要なのは、このラインが他エリアと一度も交差することなく、引き離し続けている点にある。つまり、多少の市況調整が入ったところで、都心3区が我々の住む「実需の市場」に降りてくることは二度とない。
都心3区は、住むための「住宅」であることをやめた。立地希少性とブランド、そして資産保全を目的とした「金融商品」へと変質したのだ。
「一次取得者」が市場から脱落していく順番
では、取引の熱量はどうだろうか。次図は、在庫に対してどれだけ売れたかを示す「成約率」(=成約件数÷在庫件数)の推移だ。
ここで奇妙な現象が起きている。
価格がこれほど乖離したにもかかわらず、すべてのエリアが、ほぼ同じリズムで脈打っているのだ。
都心3区の成約率は、直近で8~9%台。実はこれ、価格が安いはずの他エリアと遜色ない。高くなりすぎて誰も買っていないかと思いきや、実は活発に動いている。
これは何を意味するか?
「プレイヤーの総入れ替え」が起きたのだ。
価格上昇に耐えきれなくなった一次取得者が、まず都心3区から脱落する。次に、その余波を受けた城南・城西からも消えていく。しかし、空席になったその椅子には、すぐさま「富裕層」や「海外投資家」が座る。
一方で、城東・城北エリアの成約率が底堅いのは、そこが「一次取得者が最後まで生存できる最後の砦」だからだ。
23区は、売買のテンポという面では依然として「一つの市場」だ。しかしその内部では、エリアごとに「買い手の属性」が鮮やかに、そして残酷に分断されている。
在庫が示す、市場調整の“歪み”
最後に、市場の裏側である「在庫」を見てみよう。次図は、中古マンションの在庫増減率(前年差)だ。
2015年、都心3区の在庫が前年比+80%を超えるという異常事態が起きた。価格の急騰に買い手が追いつかず、市場が一時的に「窒息」した瞬間だ。
しかし、その後を見てほしい。都心3区の在庫は急速にハケて、再びマイナス域へ沈んでいる。これは「安くなったから売れた」のではない。「高値を飲み込める新しい住人」に市場が最適化された結果だ。
そして今、再び変化が起きている。2024年から2025年にかけ、都心3区の在庫は再び積み上がっている。一方で、城東・城北の在庫は減少傾向にある。
このコントラストが示す結論は一つ。
一次取得者が動ける「酸素」が残っているのは、もはや市場の下側(低単価エリア)にしかない。
結論:境界線は示された。どう動くかは、あなた次第だ
成約データが描くのは、東京23区という「一つの市場」の中で、住む人の選別が冷徹に進む姿だ。都心3区はすでに実需の及ばない別市場となり、城東・城北エリアだけが一次取得者の「生存域」として辛うじて機能している。「待てばさらに高騰する」と買い急ぐのか、「今は高値掴みのリスクが大きすぎる」と慎重になるのか。どちらが正解かは、数年後の未来にしか分からない。
ただ、客観的な数値が示すのは、私たちがかつての感覚で検討できる場所は、もはや極めて限定的だという事実だ。
この歪な市場の境界線に立つ今、無理をしてでも飛び込むのか、それとも賢明に距離を置くのか。その判断は読者自身の手に委ねたい。
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