スムログに寄せられる相談メールを見ると、マンション購入に前向きな声の多くは、ある程度経済的に余裕のある層からのものである。もちろん、中には少々背伸びをしながら購入を検討している人もいる。しかし、マンション購入における無理は禁物だ。
首都圏の年収倍率、14倍超の衝撃
新築マンションの発売価格は、アベノミクス以降、まるでアクセルを踏み続けるように上昇を続けてきた。そして2023年、ついに平均価格は8,000万円を突破。かつてない高値圏に突入した。一方、厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、首都圏(1都3県)の世帯年収は600万円前後で推移している。このため、「発売価格 ÷ 世帯年収」で算出される年収倍率は右肩上がりとなり、2022年には10倍超、2023年には14倍超に達した(次図)。
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データ出所:
- 発売価格:不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向」首都圏平均価格
- 世帯年収:厚生労働省「国民生活基礎調査」関東Ⅰ(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)1世帯当たり平均所得金額
- 年収倍率:発売価格÷世帯年収
年収倍率の「5倍程度」がひとつの目安とされてきたのは、住宅ローン返済負担を現実的な範囲に収めるためである。この目安は1993年1月、当時の宮澤総理が施政方針演説で「大都市圏において勤労者年収の5倍程度で良質な住宅取得が可能となるよう、(略)総合的な対策を講ずることといたしております」と語ったことから広がった。
ただし、当時と比べ現在の金利は極めて低い。そのため、単純に「5倍程度」が適正水準であるとは言い切れない。それでも、2023年の年収倍率14倍超という水準は、やはり尋常ではない。
買った価格で見ると、5.9倍に下がる
「世帯年収の14倍」と聞けば、誰しもが躊躇するだろう。しかし、この年収倍率の分子に用いられているのは、新築マンションの「発売価格」である。つまり、実際に購入された価格とは異なる。では、実際に契約された価格――つまり「購入価格」で計算すると、どうなるか。
世帯年収の14倍もの物件を買うとなると、かなりの勇気が必要だろう。
リクルートが毎年3月に発表している「首都圏新築マンション契約者動向調査」のデータをもとに、年収倍率を改めて算出してみた(次図)。
アベノミクスが始まった2012年末あたりから、新築マンションの購入価格は上昇傾向にある。年収倍率もそれに伴い、アベノミクス以前の5.2~5.4倍から、アベノミクス以降は5.6~5.8倍に上昇。とはいえ、2024年時点で5.9倍にとどまっている。まだ6倍を超えていない。
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データ出所:
- 購入価格:SUUMOリサーチセンター「首都圏新築マンション契約者動向調査」契約者全体の購入価格(平均)
- 世帯年収:同上 契約者全体の世帯総年収(平均)
- 年収倍率:購入価格÷世帯年収
なぜ、年収倍率にこれほどの差が出るのか?
厚労省の「国民生活基礎調査」で計算した年収倍率と、リクルートの調査で計算した年収倍率。結果にここまで大きな差が出るのはなぜか。理由は大きく分けて2つある。
- 価格の違い
厚労省のデータで用いるのは「発売価格」、つまり売り出し時の価格。一方、リクルートの調査では、実際に契約された「購入価格」が対象だ。購入価格の方が安くなる傾向がある。 - 世帯年収の母集団の違い
厚労省の調査は、無作為抽出によって得られた幅広い層のデータを用いており、所得が低い世帯や高齢世帯も含まれる。一方、リクルートの調査対象は、新築マンションを実際に購入した層であり、相対的に高所得の世帯が多くなる。そのため、結果的に年収倍率が低く算出されるのである
ゆえに、仮に「いまは年収倍率10倍が当たり前」といった営業トークを耳にしたら、立ち止まって考えたい。その言葉に乗って背伸びした先に、快適な住まいと生活が待っているのか。
買うべきか、買えるか。それ以上に問うべきは、「その暮らしを続けていけるか」である。
本記事の記載内容にかかわらず、物件を決めるのは自己責任でお願いします
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